発生学
道草次郎

ひとりでにできあがったものが
またひとりでに壊れていく



このフレーズが書きたかっただけでその後のことを考えず詩として投稿してしまうというその気分を表す言葉の幾つかが、今、頭にはあるけれど、そんなことを考えている後ろで
母が一つ咳をする。

ぼくはもういい歳で子持ち。
昔は子持ちと言ったら子持ちししゃもだったけれど、今子持ちといえばこのぼくのこと。お腹に子は詰まっていないけれど。
満月みたいなほっぺのあの子は今もウサギの縫いぐるみを抱えて眠っているはずだ…

さて、二行のフレーズをどうしようか。弄ぼうか、遊ばせようか。
富士山のてっぺんから紙ヒコーキを飛ばす、みたいにそれを放ってなぜかそれは絶妙な回転翼を持つこととする。まあるいまあるい螺旋を描きながらゆったりとそれは堕ちてゆき(いっそのこと重力などゼロにしてしまおう)、ふんわりとユーラシア大陸の何処かに着陸する頃には帝国の一つや二つは軽く興亡してしまって_______

やめよう。
夢想は罪ではないけれどお金にならない。お金になる夢想を拵えるには、たいへん疲れる。疲れるのはきらいで、あ、誰でもか(!)だからぼくはのうのうと今日もアイスコーヒー片手に詩なんかで漂流している…のかな?
子豚の貯金箱を壊す時が来た、いざ。

何事も実質的なのがいい。
メカ・ニ・ズム、歯車、精密機、ペンチやモンキーレンチ、単なるバール、そういった物に憧れる日々。Aのボタンを押したらBのランプがピカ!そう、そんなのが素敵だ。しかしそういうのもどうも苦手で苦手意識ばかりがどんどん大きくなって、ついには、ネジひとつ回せやしない。
もちろん嘘だけれど。

これはね、これは無駄なんだよ。
無駄ってものがあるとか無いとかいうそういう話をしてる内に色んなものが流れて行ってしまうから、まあそうでなくても流れるものは流れますが、いずれにしろ無駄って割り切った方が、それは手堅くて、やっぱり賭けをするなら手堅く行くのが、
哺乳類いや
脊椎動物いや
多細胞生物いや
あらゆるホメオスタシスを維持すべく志向するものたちいや
_____
無生物、果ては石にさえぴったりくるのである。

もうちょっと推敲が必要だよ。
この詩も、頭の中や行動も、ぐるぐる回ってるじゃないか。
ぐるぐる回っていいのはメリーゴーランドとマリオカートだけなのに、有機体でそれをやるってよっぽどのマゾか、ただ回ることの好きな回り人なのね。
おっと朝方見たトンビも回っていたからあの有機体もよっぽどのマゾな鳥か、ただ回ることが好きな回り鳥なんだ。
ちょっと待て。トンビの旋廻は朝飯の為なのにそれをつかまえて回り鳥だなんてトンビに失礼だ。朝飯の用意されたお前がそんなこと言うなんてなんだかひじょうに不敬だし、まるで台風の目の中にいて、ずっと台風の存在に無頓着なままの
呑気なピクニッカーみたいじゃないか。

みんな、倫理的なの?
心の根っこに何かが引っかかってて、そのせいであんなこと言ってしまったりこんなことしてしまったり、してしまうのかなやっぱり。

ぼくはこうしてぼくを生きるのが初めてなもので、どうもそうしたことに通暁してるとはとても言い難く、それでも霊長類としてはその性的成熟期をとっくに過ぎたわけで、ローンも二つ組んだ、まさかかかる日が来ようとは…保活にすら励み始めている。

一緒に暮らした霊長類や同級生の霊長類やいろんな場面ですれ違ったその他大勢の霊長類たちとの交流を怠ってしまったのかな、ぼく。。。

不安だよ、不安。でも生きていかなきゃならないんだし、今纏ってるこの肉の服を着た時の記憶はすっかり喪失してしまった。
だから、故郷の思い出も作り物。
それは桃源郷さ。

答えの出ぬまま夕方だ。
風鈴はその間ずっと鳴っていた。詩の行き着く先は、なんだ。
何かしらを恣にした軟体動物のような意識は共同のモチーフにすら接近できず、たゆたって胡乱に、霧島壁にへばりつく。

菌糸類よ。
君たちにたましいはあるのかい?地球の至る所へ分け入り、その内核にまでくい込まんとする君たちは、ほとんど宇宙風と言っても過言でない。
君たちに論理機構は
掻痒であろう。
たましいのみがゆるやかに、その胞嚢を形成するのだと、
君たちの見窄らしい遠縁は
惟います。

夜の帷がまた一つおりた。
おりるところがあるだけいいかと頷きながら、おりた。
(とやかく言うなよ
野次を飛ばすな)

夜風は南から入って北へさようなら。
人間は中間子みたいで
瞼の裏にはフォトン
~~~
ゆらぎの中で
ふるえて
落ちて
むなしく宇宙のフォークロアを爪弾きます……

…………

ひとりでに出来上がったものが
またひとりでに
壊れて
いく




自由詩 発生学 Copyright 道草次郎 2020-09-06 23:44:52
notebook Home