ブルース・ブラザース、日本へゆく第二章 33
ジム・プリマス

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「叔父貴はハーレム合唱団のファンで、叔父貴が若いころから、俺は何度も公演につき合わされたからな。俺もあそこの子たちは好きだよ。叔父貴は、シカゴはもちろんニューヨークの公演にもできるかぎり顔を出していたよ。ハーレムの学校にも事務局にも時々、顔を出していたらしい。」そこまで話すとスピーディーはブースの奥に置いてある中くらいの大きさの金庫から、手紙らしき封筒の束を取り出して、エルウッドに差し出して「叔父貴からあんたへ言付かっているものだ。エルウッドが来て、お前から見て信用に足る人物だと見込んだら、渡してくれと頼まれていた。」そう言ってスピーディーはエルウッドに封筒の束を渡した。 
 「日本へ行くのかい?」スピーデイがそう聞くので、エルウッドは答えた。
「ああ、きっとそうなる。僕が行くしかないだろうな。」
「そうかい。俺もハーレム合唱団のことは気がかりではあるんだが、店もあるし、ほんと、結構、忙しいんだぜ。その上、このとうり目が見えないんでね。日本まで行ってジョージ・ヤナギに会って、ハーレム合唱団の行く末を託すとなると、俺には役者不足だな。さすがに無理だ。あんたに頼むしかないね。叔父貴もそう思ったのかもな。」難しい顔をして腕組みをしながらスピーディはそう言った。
「さて、餞別代りだ、もう少し日本のブルースを紹介させてくれ。」
 そういうとスピーディは奥のブースから、今度はCDケースを持ち出してレコード・プレイヤーの隣の、例のとうりかなりの高級機種だと思われるCDプレイヤーにセットすると「1999年。ヒカル・ウタダ。First Love。」と言ってまた親指をパチンと鳴らした。
 ヒカル・ウタダの、ハスキーで微妙にビブラートする声がエルウッドを打ちのめした。彼女が17歳の時の曲だとスピーディから聞いて、さらに驚かされた。
 そんな感じで、スピーディは次から次へと、ヒカル・ウタダ。ジョージ・アイ。ミカ・ナカジマ。ヨシユキ・オオサワ。ユウカダン。フサノスケ・コンドウ。なんかの日本の曲をかけて、それもメジャーな曲からマイナーな曲までだったので、とても名前を覚えきれないエルウッドは日本のブルースの裾野の広さに参ってしまった。
 そんなエルウッドの様子を見て、スピーディーは、得意そうな顔をして「日本のブルースも凄いだろう。」というので「そうだね、さすがに参ったよ。」と答えるしかないエルウッドだった。


散文(批評随筆小説等) ブルース・ブラザース、日本へゆく第二章 33 Copyright ジム・プリマス 2020-08-28 23:29:21
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