千億の花火
済谷川蛍

 和洋折衷、さらにはカジュアルな個々の色彩が一つの流れとなって目的地である広場へと延々続く。両岸にはイカ焼きやタコ焼き、りんご飴やチョコバナナ、お面にくじ引き金魚すくいなど、食欲と郷愁を誘う魅惑の露天が処狭しと立ち並び、人の流れを惑わせる。
 さて会場は歩行スペース以外には全てビニールシートが広げられ、そこに家族連れや友人や会社の同僚などの集団が夕空の下どっかり座り、露天で買ったビールやら焼きそばを食いながら、がやがやと期待の物音を立てている。今更ながら到着した見物人は、広場を囲う芝生の生えた斜面に座るしかないのだが、そこもほぼ満席の状態で、しかたなく広場の歩行スペースを狭めるしかない。そしてほぼ全ての客が揃った頃にはもはや歩行スペースも消えていた。
 刻は来たれり。照明が消された。人々が一斉にざわつく。始まるぞ始まるぞとそこかしこで声が聞き取れ、それがまた会場の雰囲気を盛り上げる。とそのとき、会場のどこかで正確な開始時刻を知っているらしき者がカウントダウンを始めた。すぐに同志がその秒読みに加わり、それはそこかしこに伝播して、五秒あたりで会場全体が同時に秒読みをした。

 五、四、三、二、一

 たーまやー!

 会場の興奮が最高潮に達したとき、会場全体が地震のように小刻みに揺れだした。轟々と雷のような爆音が響き渡り、人々が一斉に歓声をあげて指をさした鬱蒼と生い茂る森の向こうから、程無くH2Aロケットの先端が現れた。それは遥か蒼穹へと噴きあがり、ロケットブースターを二度華麗に切り離し、お月様と背比べをした時分、突然精根尽き果てたかのようによれよれと、青息吐息のロケットさん、脱線曲線もう行けん、それでは皆様さようならとばかりに下腹部辺りの小さな日の丸から火花を散らした刹那、盛大な爆音とともに見事な大柳を咲かせてみせた。
 千億の血税が弾け飛び、場内割れんばかりの喝采である。


散文(批評随筆小説等) 千億の花火 Copyright 済谷川蛍 2020-08-27 23:23:05
notebook Home 戻る  過去 未来