毒水
アンテ

                                             
毒水をコップにくんできて
テーブルに置いた
毒水は透き通っていて
普通の水と変わらなかった
そのままにして暮らしてみたけれど
普段どおりに食事をしたり
普段どおりに眠ったり
普段どおりに花を育てたり
してみたけれど
うっかり間違えて毒水を飲んだりは
しなかった
昼 窓辺でひなたぼっこしているときも
夜 ぼんやり音楽を聴いているときも
わたしの目は
絶えず視野のすみにコップを映していた
あたたかい午後
チャイムも鳴らさずに
名前しか知らない人がずかずか上がり込んできて
勝手に椅子にすわった
駄目よそれは
その人は勝手にコップを掴んで
おいしそうに毒水を飲んだ
喉を鳴らして毒水を飲み干した
毒水じゃなかったのかもしれない
時間がたって
毒が消えてしまったのかもしれない
コップの底に
ほんのすこしだけ毒水が残っていて
その人は水道水を注ぎたして
コップをテーブルに戻して
ずかずか部屋を出ていった
とても静かになって
なにかが部屋じゅうに濃密に沈殿していて
あーあ喉かわいちゃったな
さりげなく言ったつもりなのに
別人みたいな声だった
わたしじゃないみたいな手で
コップを掴んで
わたしじゃないみたいに
コップを口に運んだ





自由詩 毒水 Copyright アンテ 2005-04-15 02:35:37
notebook Home 戻る