日常の5首
ジャガイモをチンするだけの簡単なこともできないそんな日もある
一輪のオオキンケイギクを手で折ってはたと花瓶の小ひびを
憶う
「あの花は?」いつもの同じ質問にあれは
苞さとハナミズキさす
「シバザクラ敷き詰められた庭がいい」それからぼくはほんのりピンク
千切りを褒めればほめるほどに君遡ってゆく過去へ疼きへ
宇宙の5首
太陽のフレアのように
迸る海王星でしか冷やせない
恋情
土星の環一億年前は無かったと言われてみればそんな気もして
十六夜といってもそれは太陽の反射なんです月は
水鏡
薇の
毳の玉のみずうみにジュラ紀揺らがず写されている
さらさらとながれてゆけばいつの日か辿りつけそうな馬頭星雲
哀愁の5首
太陽の射さない水底あるように街を想えば人恋しくなる
波音は月に捧げる海の歌さびしげなのは逢えないがため
「なあ、兄弟」言ってはみても鳩相手うなずく首が切なさのリズム
哀愁は紅茶のように冷めやすく両手でじっと包んでいたい
海岸で戯れている青春に「メメント・モリ」と書いて立ち去れ