重い紙袋



つま先にあたった石ころが

ころころ

ゆるく転がって川に落ちる

何の音もしない

七年前

職場のわたしの歓迎会は

小ぎれいな洋風レストランに皆集まった

こげ茶のテーブルの

中央席に野暮ったく座ったわたしに

三ヶ月で慣れますよ

困ったらいつでも言ってください

のちに癌で亡くなる

部長はワインを注いでくれた

古くて優しい眼鏡が反射するので

顔を思い出せない

皆にやさしいのですねと言いそうになり

ワインをグラスいっぱい注ぎ足されて

わたしは黙り込む

川原には夏の熟れすぎた

息が漂っている

重い紙袋を大事に抱え

躓きながら歩いてゆくと

遠まきに

カラスたちが窺っている

袋からなにを取り出すのか

すごく知りたいのだろう

わたしも知りたい



自由詩 重い紙袋 Copyright  2020-08-01 04:33:52
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