骨の町
岡部淳太郎

春の鼻先で鶯どもが歌う
淋しい発声練習
その声に誘われて わが幼年の町へ向かう
死を虐殺する季節
音も 物も
すべてに色がつき始めるが
この骨のような町はいつまでも
錆付いた単色のまま

のはずだった だが

しつけの悪い子らが駈け
若さでふとった女たちが通り過ぎてゆく

一年毎に訪れる
相も変らぬその体臭
俺は弛みながら 屍姦しながら
自らの幼年の時をごまかす
うやむやに
無理矢理に
形づくる 形をこわす

いまの 遠因の町

わが骨は弱って 祟られて
膝はぼろぼろに折れてゆく
はらはらと
落ちる涙
散る花びら
感傷的な角度の中でわが身を振り返り
この骨の町を振り返る
夜行性の猫がはげしく泣き
早起きの鴉は悪知恵を逞しくさせる
骨も 肉のようにふとることがある

そうだった そうだ

気をつけないと おまえもふとるぞ
春からのいらぬ忠告
俺の春からの いらぬ忠告
相変らずの体臭の町
骨の むせる臭い
俺の体臭はいまもここにとどまり
明日も
新しい天使の八重歯に騙されるだろう

いまの 骨からの肉づけをする

そのためにふとる
あるいはやせる
ここにいることの不満で
いまだに立ち騒ぐ
俺の中の
春の霊



(二〇〇三年三月)


自由詩 骨の町 Copyright 岡部淳太郎 2005-04-13 18:43:00
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