目隠しの奇想曲
ホロウ・シカエルボク


指を伸ばして
最初に触れたものの名前を教えて
それはきっとこれからの
示唆を含んでいるから
たとえそれが
取るに足らない冗談めいたものでも
なにも手に入らないよりはきっとましなことでしょう

あなたは戦場に行って
人の死が死でなくなるまで
たくさんの弾薬をばらまいて来た
いまでも夢に見ているでしょう
あたたかいベッドのなかで子兎のようにふるえているもの

夜の在り方はさまざま、ミルクティーを淹れるみたいに
ぼんやりと過ぎていくことだってある
さあ、小難しい本はサイドテーブルに置いて
そんな夢を見る練習をしてみようじゃありませんか

落花生の殻のなかで思い出が死に絶えている
さなぎを破れなかった虚弱な蝶のように
肉体と違ってにおいを立てられないから
いとも簡単に忘れ去られてしまうのです
もうなにもなくなっているかもしれないけれど
ひとつひとつ割ってみるのも悪い話じゃない
なにも思い出せなかったとしても
それはわずかに目の前に立ち込めた霧を晴らすはずだから

置時計が静かに
私たちが生きていることを話している
いけすかない単調なリズムで(このもの言いはフェアーじゃない)
それは詩や音楽にはなり得ないけれど
でも確かにひとつの
世界の証にはなるはずでしょう

見て、カーテンのところで素敵な蛾が泳いでいる
あの子はきっとあそこが気に入ったのだ
まるで草花や木々に止まるように
柔らかな布を選択して穏やかに振舞っている
ねえ、レコードに針を落としましょう
パガニーニなんて好きじゃなかったけれど
今夜はなんだかそれが似合うような気がするのです
性急なヴァイオリンの旋律に飛び込んで
もしかしたらいままでに見たこともない
そんな夢が見られたなら
明日の朝
いつもより会話が弾むに違いないじゃないですか



自由詩 目隠しの奇想曲 Copyright ホロウ・シカエルボク 2020-06-17 02:24:48
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