あらい

 唯、傷は塞がっただけで 奥底に植え付けられた 過去たちがわざわざ 視界を滲ませ続ける。
 人の惨劇の 常緑の星を頂く 銀翼を奪われた雀蜂が、舞い上がる独り舞台の 空になった香瓶の細口に ひしと偲ばせるだけの為に この子の泪は膿を尾として 此処に愛しに集う密度だ。
 盗人たちの 住まいを弛撓シタタワせるなどと、運命とは酷い有様で 頭アタマはただの飾りの 羽化したてのお転婆でも 雨風に射ウたれ 丸裸の縁エニシを崩され 柔らかな身を摺り点ける 尚も他人同士で。
 弾力ある意識 ケチな書簡 縺れ合う銀河 相容れないもの。
 誰もが隠す祭壇の先には何が眠るのか 一刀突き立てた露骨な腕カイナには 潮風が茶褐色の末裔を引き連れ 未来に向かうと 、砂礫の街を売る映写機の うつろぎな花は知っていると。
 新しき思い出は腫れ上がり 陽光を求めるまま焼かれ、翅を捥がれたジャノメチョウは火黙りの下で 死した後も鱗粉だけを踊り証アカす。開かずの扉は偶に 真珠色の光沢を世界にバラ蒔いて 皆を狂わせる曙光を見出すが それで我々は助かったのだろうか 身捨てられたのだろうか。
 未来の道は均衡を保ち なだらかに下っていくのは 命あるものの定めとして明るいもので、やむを得ない旋律に 釈然としないながら擬態する 逆さ吊りに咲いた なでしこの彼方すら 肥やしにするは 時の流れと申します。
 忘れ形身とも謂れ、天罰を下す 義理の兄様の身にも成る 反転した月の下で悪評を跨ぐ 黒々とした逸物の 侵される罠でも 囀りはただ静寂に 密か共鳴を狂わせ 刎音を残した せせらぎが停る これは刹那のこと 無影灯に照らされて散った命 、今に辿る。


自由詩Copyright あらい 2020-05-02 22:26:59
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