苦悩、遊び、果実
両性具有

「苦悩」

あかはちしろはゆき
あおはそらみどりはもり

まぜあわせないままに
絵を描いたなら
それは誰の血でいつ降った雪か
だれの目に映った空と森か
それを描くのは誰の指で
けなすのは誰の言葉で

出来上がった
猥雑な一枚の絵画という
苦悩
混ぜ合わせてぶちまけたなら

ちのあたたかさも
ゆきのつめたさも
もりとそらのさかいめも
苦悩

それしか描けなくなった
画家という名の苦悩者




「遊び」

遊びで
歯を立てた
爪を立てた
気づけば血まみれで
それでも笑っていて
じゃれ合う手と手に
力がこもってゆく
遊びで
なぐって
けった
じゃれあう二人だけが
笑っていて
傷は増えて深くなって
血は流れて
遊びで死んだ
殺してしまった
気づけば動かなくなった
どちらか一人
息絶えた顔に張り付いたままの
笑い声が聞こえてきそうな笑い
遊びで
土を掘って
埋めて泣いた

遊び遊び遊び全部遊び

飛び降りる勇気なんてお前にない
死にたいなんて口先だけだ
臆病者の無能者め
生き残った人が
そう言われてかっとなって
殺してしまった
その崖から飛び降りた

静まり返った
死んだ遊びの
理由を知る人はいない



「果実」

夜に果物を食べる
ナイフで皮を剥いて
果肉をほじくりかえして
詰め込むように食べる
オレンジ色の汁が滴り
口の中に酸味が広がる

灯りを消してテレビの画面
骨がむき出しの女が
いたいやめてと泣き叫んでいる

ぼくは笑いをこらえながら
果物を食べ続ける
夜の果物を咀嚼し続ける
スナッフビデオの画面のなかで
女の声がただの悲鳴になると
耐えられずに大声で笑った
果物と果物の皿が床に転がり
口のなかに血の味が広がった

うるせえだまれ
隣人が壁を叩いた


自由詩 苦悩、遊び、果実 Copyright 両性具有 2020-03-28 21:59:05
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