甘いバターと春、或いは
みい
今日もひとりでいたわたしが死んでゆく
春になろうとしていることを目で捉え
そして触ろうとしたあなたの髪を
さらり、簡単すぎるほど軽くすり抜ける
ねえ、どうしてこんなにたったわたしのひとつの命が
こんなにも重たくてつらく鮮やかなのですか
あなたの指はいつも絡まったピアノを解くような
優しい温度をしていて
苦しみとか
痛みとか
なんでもなかったかのように笑うの
もう、よして
キスだとか抱擁の
リズムがあるものは全部壊してしまいたい
絶対に必要なのに要らないと思ったの
コップの中の指輪はきっと
サイダーに溺れて言葉も出ない
泡が
ただのぼるだけの呼吸は
つまる
月に浮かぶ少しのたましい
絶対に必要なのに要らないと思ったの
わたしの不規則な幸せに
あまりにも似合わない
あなたの笑った顔
あまりにも
綺麗で
つくられた、苦しみで良かった
ずっとそれで絡めた手と手の隙間を埋めて
そしてキスして
わたしはその苦しみを食べて
ずっとずっと死んだノクターンを求めてる
「死んだ、なんて語弊があるよ」
あなたは確かにそう言った
その優しい声はわたしの焼いたパンケーキを
ひょいと食べて
そこにはわたしが望んでいた
窓の光が、溶けたバターと消えていった
ただそれが
いちばん春に近かった