バラエティー生活笑百科について
TAT
昔から好きで観ていた番組のひとつに「生活笑百科」というのがある。関西発の堅めのバラエティ番組で、「四角い仁鶴が、まあるく解決!」を売り文句にして主に視聴者から寄せられた法律相談を弁護士がジャッジする番組である。関西圏の人間なら土曜日のお昼過ぎに流れるその主題歌を産まれてから一度も聴いた事が無いとは言わせない。そんな奴は阪急と京阪と大阪地下鉄に謝れ。探偵ナイトスクープの向こうを張る長寿番組のフォーマットはこうだ。まずは中堅系の漫才師が出て来て法律相談のネタを演る。「ちょっと聞いてくれ。うっとこの庭の柿の木ぃが、さいぜんから隣の家にまで伸びててな、その伸びた枝から柿の実ぃが、隣の家の庭に毎年落ちるわけや。で、うちとしては枝がお隣の家の庭にまで伸びてて申し訳ないからせめてそちらの庭に落ちた分は、これ差し上げますのでそちらでご自由に召し上がって下さいっちゃなスタンスで毎年やっとった訳や」「ほお」「ところが今年は異常気象が続いとったもんで柿が成らんかったんや」「さいか」「ほいだら隣の主人がな、今までは柿の実が成るから大目に見とったけども、それも無いんやったらこの枝は邪魔なだけやし切ってくれと、こうや」「そらまた殺生やな」「隣の主人が言うには、ウチの柿の枝が隣の家の庭の領空権を侵害しとるから、しかるべき金額の賠償金が支払われない場合は法的な手続き及び武力行使も辞さないと、こうや。往生しまっせ、ほんま」「そらファッキンやな」「せやけどワシはそんな金払いたないんや」みたいなお題が出て、笑福亭仁鶴が適当にMC回して、回答者席っぽい位置に座ってる三人ほどのパネラー(相談員)がそれぞれ「払わねばならない」「払わなくてよい」「そんなもん知るか」等の異なる見解を示し、さてさてでは弁護士さん正解をどうぞという感じで最終ジャッジが下る。そういうアレである。この相談員役も各人、味があって最高だ。特に双子のマナカナは可愛い。好きだ。昔から好きだ。顔がストライクなのもあるが双子なのもポイントが高い。双子に惹かれるのはおそらく昔読んだ村上春樹の「1973年のピンボール」という小説の影響ではないかと睨んでいる。マアほんで話戻すけど上沼相談員なんかは殿堂入りレジェンドに間違いなく入るのではないだろうか。「でもよく考えて下さいよ皆さん。この隣のハゲたオッサンは、今までずっと、毎年毎年、柿の代金も払わずに不当に利益を得て来た訳ですよ。こだまさんは払わなくてよろしい。むしろ今までの柿の代金を請求すべきです!」とか上沼節を炸裂させて「隣のご主人がハゲてるて見てきたんかいな」と仁鶴がすかさず切り返せば、たちまち京阪神は爆笑の坩堝なのである。後に行列の出来る法律相談とかなんとかパクリ番組が全国区で生まれたがアレ考えた奴は絶対、生活笑百科の影響受けてんだろと、そう思う。ただ関西ローカルの予算の都合なのか何なのか、生活笑百科は弁護士は一人である。一方で行列の方は弁護士が何人も出ていて数通りの法律的見解を並べていて内容も分厚い。 常識的に考えて「これが正答です」と言い切っちゃう生活笑百科の信憑性に一抹の不安がよぎるのも致し方ない。でもまあ今は行列の話はどうでもいい。問題はバラエティー生活笑百科である。主題歌は無論、キダ・タロー作である。大阪で楽譜と鍵盤に触る者はすべてキダ先生の許しを請う必要がある。一般常識である。そんでこうやってダラダラと駄文を連ねているわけは、先日久々に彼の番組を観る機会に恵まれたからである。そしてその際に非常な衝撃を受けたからだ。問題は大きく分けて二つある。まず①四角い仁鶴が丸く解決!てオープニングで言うてんのに仁鶴がどこにもおらんがな問題である。そう、現在は司会が桂南光に代わってしまっているのだ。それ自体は別にいい。ピンチヒッター代役なのかもしれない。それも大いに結構。だが、それならオープニングの「四角い仁鶴が、まあるく解決〜♫」と仁鶴が吠えるナレーションはひとまず外しとけば、と激しく思ってしまったのである。考えてみてほしい。金曜日の深夜、あなたがテレビを見ているとする。おなじみの円広志の曲がかかる。ベッドに服を脱ぎ捨てて週末だけの秘密の部屋でおどけてチークを踊るとかなんとか歌ってる意味わからん曲だ。やがて拍手の音。そして上岡龍太郎の声。複雑に入り組んだ現代社会に鋭いメスを入れ、さまざまな謎や疑問を徹底的に究明する探偵ナイトスクープのお時間がやって参りました!という流暢な喋り。画面には西田敏行。いや、おかしいだろ。画面には松本人志。おかしいって、だから。局長変わってるのに上岡龍太郎ボイスでスタートされても我々は混乱するばかりだ。そういう感じのおかしな事を生活笑百科は、しれっとやっちゃっているのである。昼間に。シラフで。これは妄想だがおそらく南光あたりが「仁鶴先生の番組やのに先生の天の声スタートで始まらへんとか有り得まへん」とか優等生ぶってええカッコした結果、意味分からんバグ仕様が現出したのではないか。まあ思いっきり偏見だが。そして②。もうひとつの問題は、ぼんやりオープニングから観てたら「さて今回はこんな御相談です」とか言った後に【イラスト漫画による説明】が始まった事である。ちょ!何してんねんな!がファーストインプレッションであった。だってそうだろう。法律相談を噛み砕いて説明するために漫才があるのだ。せやのにイラスト漫画で説明してしもたら漫才はレーゾンデートルを一撃で失う。なのに、、。柿の木、今年は不作、領空権、賠償金といったキーワードが分かりやすく色分けして示され、あまつさえイケてる髪型の大木こだまの似顔絵まで描かれているのである。いや、、。それ分かりやすく漫画にしてしもたら漫才やる意味なくなるやん、、、。「では漫才です。どうぞ!」いやいやいや。今もう全部内容聞いたんですけど、、。これからやる漫才の内容を分かりやすく一瞬でイラスト漫画で説明してから、漫才をする。ざわざわと圧倒的な二番煎じ感が凄い。むちゃくちゃヒリついてんじゃねえか、、、、。と思ってしまったのである。だがまあ、そういう不整合や矛盾を物ともせず尚、君臨し続ける「バラエティー生活笑百科」は今もまだ面白いし、この番組が好きだ。毎週絶対欠かさずって程ではないが、死んで路傍に野ざらしになる前の週もこの番組を観ていたとしても不思議はないなと思う。