デカメロン
アニュリタ
【大きな女の話】
さざなみのようなくすくす笑いが船室を満たし、ゆっくりと退いていくのを見届けてから、**夫人は次の語り手を指名した。
「恭子さんもお盛んだこと!わたし、ちょっとどきどきしちゃったわ。
それじゃあ次はお若い殿方がいいわね。どうかしら、水谷さん。あなたのご経験からお一つ、ちょっと変わったお話しをしていただけません? ずいぶんお若いようですけど、あなたほどハンサムで、意志の強そうなかたでしたら、色々なご経験もおありでは?
あなたも今夜はおさみしいでしょう。
上手にお話ししていただければ、どなたかマダムなりお嬢さんなりからご褒美があるかもしれませんよ。」
大学を卒業したて、といった雰囲気の青年がウイスキーの入ったコップを開けた。彼が水谷らしい。生地や仕立ての良さそうな、明るい灰色のスーツに細身だが筋肉や骨格はしっかりしていそうな身体を包んで、今夜は緑色の細かい柄のネクタイをしている。金色のタイピンに白く光る石があしらってあった。
こころもち緊張したような笑顔を作って、水谷は語り始めた。
(水谷青年の話)
「私など、皆様に比べたら本当に赤ん坊のようなものですよ。経験も少なく、面白いお話もできないのですが、実は学生時代に年上の、商社勤めの女性に可愛がっていただいたことがあります。苦学していたものですから彼女の経済的な援助は大変ありがたかったし、いろいろな相談にも親身に乗ってくれて、とても優しく、人間的にも大変立派な女性でした。切れ長の目をした、美人でしたしね。
ただ、それが、妙な話なのですが、彼女は当時私が童貞であったことを面白がりましてね。なんでも童貞を連れて歩くのが良いのだとかで、色事もさんざん仕込まれたと言いますか、いや失敬。教えてもらったのですけど、セックスだけはさせてもらなかったのです。
「童貞にとってはなかなか刺激的な、様々な悪所に連れていかれたものです。
そういえばあるときは男性用の貞操帯をさせられて、スワッピング会場に連れていかれましたよ!
いやいや、そんな風にいうと、本当に意地の悪いサディストの女のように聞こえるかもしれませんが、心の優しいひとでしてね。灰色のスーツと白いコートの似合う、とても素敵な人でした。
「すみません。どうも私は御婦人方がいらしゃるところで、こうした話をする機会がなくて慣れていません。お許しくださいませ。脱線しました。
ある夜その女性が、面白いパーティーがあるからと、私を連れて、渋谷を青山のほうへ少しいったところにあるビルに行ったのです。
そこはロココ調の家具で飾られた、広い貸し部屋のようでした。ドアを開けてもらって、入ってすぐ驚いたのは、入り口の両側に番人のように立っていた立派な体格の二人の男性の姿でした。
なんと目の開いていない真っ黒な全頭マスクをかぶって口だけ出しているのです。そしてその口にも口枷がしてありました。さらに両手を後ろ手に拘束されています。
もちろん、その頃には私も、童貞とはいえいろいろ刺激的なことを経験させられましたから、それだけなら驚かないのですけど、その男性は二人とも全裸だったのです。
全身を縛った黒い皮ひも以外は。そしてなかなか立派な、とても太いペニスを勃起させていたのすけど、それが絵具かペンキかで、真っ赤にペイントされていまして、そこにローターが結び付けられているのです。
私を連れてきた女性は二人の男性の下半身を交互に見くらべて、「あらあら」と、声を上げて笑いましてね。そのまま笑いながら受付の背の高い女性と楽しそうに話しながらお金を払い、コートを脱いで受付の女性に渡し、黒のスーツ姿になりました。
二人の話によると、さすがにずっとスイッチを入れっぱなしというわけにはいかないようで、全裸男性二人の胸のあたりにスイッチがあり、受け付けの間は、萎えてきたら受付の女性がスイッチを入れるそうでした。そのあとは、来客の誰かが、気が向いたらスイッチを入れたり切ったりするのですが、案外優しい女性が多くて、二人ともパーティーの最後まで勃起していられる日が多いのだとか。そんな趣向のようでした。
受付の女性はシックなモノクロのメイド服を着て、白いリボンで頭を飾って、ピンヒールを履いた長身の女性でした。
私は彼女から、艶出しの白一色の大きな紙袋、ショッピングバックというのでしたか、それを、
「はい。どうぞ。」と、渡されました。
高く澄んだ声で、不思議と印象に残っています。
かなり大きなバックでしたので、何に使うのだろうと思っていると、
「あなたにはきっと必要になるんですよ。お持ちください。」
と、言って、微笑んでいました。
「中央のテーブルの上では、目隠しをされた女性が股を大きく広げて、全裸で飾られています。会場内はさながらエロティックなサーカスとなっていて、男女が様々な痴態をくりひろげ、それを見せたり、見たり、触ったり、出し入れしたりと、楽しんでいました。
私も一緒に来た女性に言われるままに、非常に整った美人の、しかし小人症というのでしょうか、背丈は小学生ぐらいしかない女性に鞭で打たれたり、乳首に針を刺されたりと、いろいろ経験させられました。
数時間もかけて一回りしたころには、私を連れてきた女性もひとしきり場の発情した空気を愉しんだようで、二人とも上気していました。私は服を脱がされ、下半身の下着1枚を残して裸にされていました。出かけるときは、大抵いつもそうだったのですが、この時も彼女の言いつけで、薄いシルクの下着だったと思います。脱いだものは、受付で渡された白いバックに入れて手にもたされていました。
しかし何といっても、私は童貞でいなければなりませんから、出来ること(させられること?)は限られています。そろそろ帰ろうか、と二人で目配せをし始めたころあいで、どちらが先だったか、会場の端に二百センチ近くもあろうかという、大柄で豊満な女性が半裸でいるのに気づきました。
私たちが近づいてみると、彼女はとてもきつい目をしているのですが、どことなく知的な感じのする黒髪の女性でした。相当太っています。ですが、肌の手入れが良いのか、きめ細かく、ぷりぷりしたチャーミングな感じでした。大きくて太った女性なのですけど、動作は機敏ですし、美人です。前の開いた、エロティックなスケスケのネグリジュを着ていました。ブラジャーはしていないので、乳首が見えていましたし、下半身には黒いレースのパンティーを履いていました。
「私はヒロミ。あなた、やってみる?」
と言われて、私は何のことだかわからなかったのですが、後ろにいた、連れの女性がトントン、と肩をたたいて合図します。(やれ)、という意味です。
「はい。お願います。」と、私は答えました。
すると、その女性よりさらに背の高い、筋肉も隆々の女性がいつの間にか横に来ていて、微笑んで言いました。
「そう。私も手が空いているから、一緒にやってやるよ。私はサエコっていうの。覚えてね。」
優しい声なのですが、なにか企んでいるような、面白がっているような響きが混じっています。金髪に染めた髪を横で結っているのが、野性的な感じの女性でした。
「いいわね。あなたも良かったじゃない。すごいことよ。私が九十五キロ、彼女は百十キロあるから、あなた、二百キロ超えを経験できるわ。なかなかないわよ。」
いわれるままに聞いていると、最初に声をかけてきた黒髪の女性が、私の顔に上から豊満な胸を押し付けてきます。床にはマットレスが敷かれていたのですが、そこに手の代わりに胸で押し倒されるようにして寝かされました。
もうひとりが、私の下半身の上に座ったようでした。
あっと気づいたときには、指一本動かせません。
上半身は先ほどの女性が寝ているのですが、何がなんだかわかりません。どうも顔の上に女性の腹部があるようで、おっぱいらしいものが片側の肩を押し付けています。片手の指は女性に咥えらているらしい。上半身のうち反対側は彼女の下半身の下にあるようで、二の腕のあたりに、隠微な湿り気のある肉が押しあてられていました。
下半身はさらにどうなっているのかわかりませんが、もう一人の女性の下になっています。
(プレスよ。)
と言う声が肉の壁の向こうから聞こえるとともに、どうやったのか、さらにぎゅうっと体が彼女たちに包まれていくのを感じました。もはや肉の布団のなかにすっぽりいるような感覚でした。彼女たちと接している私の体の隅々が、触れている女性の細胞に発情していきます。自分の乳首が激しく勃起し、触覚器官のように、女性の体を知覚します。
(そのコまだ童貞なの。とっておいているので、射精させないでね。)
と、私を連れてきた女性がいってくすくす笑うのが聞こえました。
良い匂いに包まれています。体が勝手にびくびくと動き始めました。
腰が動きたがってるのですが、押し付けられてほんの些細な動きしかできません。それでも少し動くとペニスが下半身を抑えている女性のどこか、柔らかいところの間をこすってわずかに動きます。
(だめよ。)
と、いう声が聞こえて、それを合図に二人の女性が私の体から降りました。
「どうだった?」
と、ヒロミと名乗った女性が訊きます。
「とても柔らかくて…」
それ以上何も言えない私を囲んで、三人の女性が楽しげに笑いました。
「いまのは前戯みたいなのもなんだけど、坊やにはかなり刺激が強かったみたいね。私たちの本領のガンキ、このコにしてもイイかしら?」と、サエコと名乗った女性が私を連れてきた女性に訊きます。
「いいわよ。でもイカせてはだめだし、童貞のまま返してね。」
と彼女が答えて、再び私の体はマットレスに押さえつけられました。
サエコが私の胸にまたがって尻を落とし、上から教えます。
「いい?これからガンキするけど、どうしても息が苦しくなったらマットレスをパンパン叩くのよ。叩く前に意識を失って死ぬ人もいるから気をしっかりもちなさい。それとすぐ叩いちゃダメ。頑張ってみなさい。」
サエコが前に巨体を動かし、私の頭を巨大な太ももが挟みます。巨大で筋肉もりもりで力強いんですが、柔らかですべすべした太ももでした。ゆっくりと、巨大な尻が私の顔を完全に覆って落ちてきます。あと三十センチばかりのところで、一度腰が止まり、彼女の指が伸びてきてパンティーがずらされました。さらに花弁が開かれます。
きれいだな。いい匂いだし、と思う間もなく、花弁に鼻と口をふさがれ、太ももと尻に顔面が完全に覆われました。ヒロミは私の下半身の上に乗りました。ペニスが彼女のどこかに挟まれますが、先ほどと違って体のどこにも全く力が入りません。文字通り指一本動かせず、ペニスの痙攣すらできません。
真っ暗な宇宙空間を遊泳しているような感覚でした。
私は舌を伸ばしました。海に口づけしているような感じがしました。
「マットレスを叩きなさいって言ったじゃない。大丈夫?」と言って、サエコが少し心配そうに私の目をのぞき込んでいました。
「偉いわ。がんばったね。射精もしなかったし。気を失うひとは、大体射精しちゃうんだよ。言いつけを守ったのかな。」
とヒロミが言って笑いました。
私の今夜の話はこんなところで。消暇の具に楽しんでいただけましたかどうか。なにせ若輩ですから、ご不満のかたもいらっしゃるとは思いますが、お許しください。
ところで、これが私の初めてのクンニリングスでした。その後、この時私を連れてきてくれた女性に鍛えられましたし、なにせ最初が命がけでしたから、多少は自信があります。お試しになりたい方は、お声がけを。
ご清聴ありがとうございます。」
集まっていた男女の、笑い声が花開いた。なあんだ、売り込みか。と思ったものもいたし、話をすっかり信じたものもいたようだった。
こうして水谷青年は、彼の物語を語り終わったようだった。