虹をつかまえた猫
丘白月

海の見える小高い丘
小さな貝殻細工の
可愛い蛇口

潮風が染み付いたベンチから
ペンキの赤い欠片が
公園のあちこちに落ちて

砂と交じり合いながら
なにか言葉を探すように
花びらを作っては消えた

スケッチブックを抱えて
小学生のエリが
猫のポプラとふたり海を見てる

白く光る灯台から
遠い沖まで虹が落ちる
色鉛筆が滑りだす

スケッチブックの虹を
ポプラがじっと見て
もっと近くで見たいと言った

エリは指差して
あの虹を持って来たら
どんな願いも叶うと言った

ポプラは言う
こんど生まれ変わったら
人になりたいよと

ポプラは遠い記憶の中で
時折思い出す
虹の光の中でエリと遊んでいた日々を


公園の柵に止まるウミネコが
ポプラに教える
君の命はエリちゃんより短いよ

エリちゃんが月なら
君は虹のように
あっという間に消えてしまうよ
そうさ僕らはみなひとつの魂を持って
なんども生まれて来るけれど
いったい何だったのか知らない

ポプラはつぶやいた
あの虹はエリちゃんが架けたんだ
消える前につかまえたいんだ

ウミネコは言う
虹に乗ろうと思ったことがあったよ
でもね辿りつけない所なんだ

虹はとても綺麗だけど存在しない
まるで生まれる前の国か
死んだら行けるのかもしれない

ポプラは走り出した
白い灯台に向かって
虹をつかもうとして

エリはウミネコを呼んで言った
私は虹の妖精なの
ポプラはきっとつかまえて来るわ

帰ってきたら伝えて欲しいの
たぶん私はいないから
虹のかけらは私の魂だと

灯台に辿り着いたポプラは
空を見上げて言った
虹なんてどこにもないよ

ふと海を見下ろすと
海はずっと遠くまで
すべて虹の色に輝いていた

虹が海に生まれ変わり
ポプラの心を映して
ゆらゆらと虹の波が見えた

妖精の魂が水面から
ゆっくりと沈んでいく
潮の香りは妖精の故郷

辿り着けない虹が
ポプラを呼んだ
ここに帰ってきてと

ウミネコが
エリの言葉を伝える
ポプラの前世は妖精だったと

そうエリの子供だったと
波打ち際に沖から
流れ着く虹のかけら

その一つ一つが
二度と戻れない
二度と合わないパズル

夕日が虹をつかまえに来た
オレンジ色に消える前に
ポプラは虹をつかまえる

母の温もりを感じながら
生まれ変わる時間を待ちながら
再会の虹が海に沈む前に



自由詩 虹をつかまえた猫 Copyright 丘白月 2020-03-07 22:31:47
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