アラウンドアバウトミッドナイト
ホロウ・シカエルボク

瞬きのように
古い明かりが
点滅を始めて
一日のおわりの
非常信号みたいに

すべての支度は終わった
あとは眠るだけ
眠りなどしないだろう
往生際は悪いほうが潔い
ほんとうに美徳と言えるのは貪欲さだけだ

犬歯を牙のように研ぎたい
ひとめで判るように
ひとを殺すための牙だって
けれど
歯のためのやすりなんて手に入らないし

言いかけてやめた言葉は
やめられたままであるべきだ
そんなやりくりに夢中になると
運命は捻じ曲げられると
信じることが出来るようになってしまうから

枕を引き裂いても夢は隠されていない
ソフトパイプと綿の群れが
はらわたを食い破った虫たちのように溢れ出してくるだけ
果てしなく白い内容物は
センシティブだなんて片付けられなくもないけれど

失われた電話番号をコールするのが好きだ
それは繋がりの化石だ
使われていませんと告げる機械の声は
破られたガラス窓みたいな振動の余韻を残す
枠だけの窓から出来る限り遠くを眺めている

購入して数日
包装紙にくるまれたままだった本を取り出して
最初のページをめくる
眠りたくない夜は
出来る限り有意義な真似をしなければ

夜の鳥はパンクロックを歌う
突き刺すようなけたたましい鳴声
今じゃパンクも死んでしまったよなんて
ぼくがもしも音楽評論家だったなら
そんな台詞をまことしやかに吐いてもみせるのだけど

受け入れられない連中はみんな
ごりごりと夜に突き刺さる
なにか気に入らないことがあったのか
それとも初めからなにもかも気に入らないのか
なにを考えようと勝手だけれどぼくにその質問はしないでくれたまえよ

床の埃が気になるのでガムテープで排除した
それは昔やってたアルバイトで覚えたやり方だった
手軽でなおかつそれなりに成果も得られる
専用の道具だけが効率を生むわけではない
大事なのはそれを知っているかどうかだ

比較的自由に選ぶことが出来る
比較的自由に手に取ることが出来るのに
誰もがそんなものはどこにもないんだという顔をして生きている
ぼくが時々愚かにも
比較的判りやすいやりかたでそれを示しているのにも関わらず

あーぼくは別にメッセンジャーなんかじゃない
アジテイターでもないし運動家でもない
えーとなんていうか趣味でやってるものです
趣味の定義なんてここでは大した問題じゃないからね
作品なんて比較的自由な存在なんだから

裏の窓を開けてみようか
明るくない景色ばかりの窓を
真っ暗な夜に駆け抜ける電気自動車
あれは最新型の人魂だよ
まったくどうにも目が追っつかないね

いちばん最初の理由ってなんだっただろう?
だいたいみんなそのことを忘れてしまう
頭で考えなくていいんだよ
やってきたことが染みついているなら
身体はだいたいそのために動き続けるものだから

風が暴れている
明日は太平洋側でも雪が降るところがあるって
唇の形を気にし過ぎている女が巨大な地図の前で話していた
雪の日には素敵な思い出がたくさんある
たとえぶるぶると凍えていたってね

幼いころ住んでいた天井の木板に浮き出た三つの染みが
苦しみをうたう人の顔に見えてしかたなかった
怖くはなかったけど目が離せなかった
あいつはいつ喋り出すんだろうとずっと見上げていたんだ
時々妙な音を立てることがあったけれどそれは天井裏に忍び込んだ蝙蝠の仕業だった

生きてきた限り現在は過去とないまぜになっている
それはおそらく未来と呼ばれるものよりもう多いだろう
ぼくは本を閉じて自分の手を開いたり閉じたりする
それはある日突然失われたりすることもあるかもしれない
それは間違いなく昔よりもリアルな予感になっている

誰に告げましょうか
誰に覚えておいてもらいましょうか
出来ればすべてを出来るだけきちんと理解してくれるひとがいい
そんなひとを見つけるのはとても難しいことだけれど
まるで居ないわけでもないことをぼくはもう知っている

思う存分に脳味噌をこき使って
誰も書いたことがないような新しいスタンダードを
限られたひとにしか使えない武器みたいなものを
取引をしようぜ
代金は知性だよ

夜の波打ち際で
起きたまま寝言を繰り返す
ハロー今夜も少し遊んでおかないと寝返りの数が増えるんだ
ゲームのルールが理解出来たらホイッスルを待ってください
それと同時にぶち壊してくださいって神様と名乗る年寄りが笑った



自由詩 アラウンドアバウトミッドナイト Copyright ホロウ・シカエルボク 2020-02-16 22:38:37
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