母に
立見春香

言葉というのは
光の反射のよう
どこでどう突き刺さるのか
わからない

まるで迷子の心細さなど
味わったことない顔をして
いつか母になったとき
むかし言った言葉に
埋め殺されそうになる

アナタナンテ、きらいデス

むかしいだいていた母の愛情は
どこに置き去りにしたのだったか
そういえばあのときの難破船の船底に
ずいぶんと傷んだマリア像が
倒れていたけれど

あの瞳をかたどった穴から
なにか言葉のようなものが
こぼれ落ちたのを
聞いた気がする

あれが最後の
慕情だったのかは
知らない

おそらく
誰も知らない








自由詩 母に Copyright 立見春香 2020-01-24 03:51:39
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