古い写真
TAT
年末の日曜日
昼から呑みながら適当に
部屋の整理をしていたら
ふと一枚の古い写真が出て来た
しばらくそれを眺めていると
フローリングにヘナヘナと座り込んで
ぼろぼろと涙が止まらなかった
俺も
ハイボールのグラスも
人が見たら何だそれと思うだろう
92年の写真だ
俺は中学の制服を着ていて
母親が俺の腕にしがみついて
とびきりの笑顔で笑っていて
92年だから携帯なんか無くて
それは写ルンですを自分達に向けて自撮りした不恰好なスナップショットだ
確か俺の入学式の時に
アパートの小さい庭で撮ったやつだ
母親は今も普通に生きてるけど
なんで泣いたかというと
母親がとびきりの笑顔で笑ってるからだ
写真を見ていてじわじわと思い出したんだけどあの日
入学式の帰りに
俺たちは近くのホテルの写真屋に寄って
ドラマやなんかでよく見るベタな家族写真を撮ろうとしたんだよな
母子家庭ながらも懸命に働いて無事に
俺を中学校に上げて
その記念に
オカンが椅子に座ってて
その横に俺が立ってる
一生残るやつを撮りたかったんだよな
けれども高くてさ
二万だか三万だかで
受付で恥かいて家に帰ったんだっけ
そんで
ローソンで写ルンです一個買って帰って
家で
撮った
けれども
写真の中のオカンはとびきりの笑顔で
ありがとう
笑っててくれて
ありがとう
大人になってから
金なんか関係あるかって
物怖じせずに人生と渡り合えるようになったのは
あの時オカンが笑っててくれたからじゃないかな
あの時笑いながら
お金もったいないし写ルンですとおかず買うて帰ろって
堂々とそう言ってくれたからじゃないかな
正月には家に帰ろう
帰って母親に
金はそんなにないけど悩みも無くて
今俺は基本的に幸せだと
しっかりそう伝えようと思う
基本的てなんやそれって
きっとそう言うだろうけど