後ろの車掌
mmnkt

最後尾の車両の
最後尾の補助席に座り
乗務員室の窓から見える景色は
猛スピードで更新される
乗務員室にいる車掌は
言わずもがな運転しないが
駅に着くたびに外に出て
小さな動作をしながら
独り言のような掛け声をしたり
マイクでアナウンスする
電車が走っている時も
車内アナウンスをしたり
メーターや時刻表を確認する
車掌は座らず
ずっと立ちっぱなしだ
だんだんと、しかし素早く
夜になる
車内は明るく外は暗いので
窓には車内が写るようになる
マスクをした眼鏡の人間
私が窓に写っている
この哀れな人間は
今日も都会で欲望を刺激され
行こうか行くまいか
行ったところで帰りには
余計に虚しくなるだろう
そんなことを考え行くのを止めて
フォトジェニックな街を
野良犬のごとく歩いた
歩いても歩いても
私は透明な部外者だった
ひとりぼっちの恐ろしさを
行くあてのない恐怖を
その銃口を
埃の魔獣に向けられる
私は歯を食いしばり
欲望をギリギリ嚙み潰しながら
逃げるように電車に乗った


自由詩 後ろの車掌 Copyright mmnkt 2019-12-15 18:36:21
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