名もなき詩を書く男の最後
初代ドリンク嬢

その男は
ひたすらに詩を書き続けた
何も求めず
ただ書き続けた
詩を書くのと同じように
酒を飲み続けた
肴など必要とせず
ただ飲み続けた
血を吐いては飲み続け
罵倒されては書き続け

何のために書くのか
なぜ呑むのか
そんなこと考えもせず

血を吐いて倒れた

病院の病室でも
隠れて酒を飲み
黙って書き続けた

だが、
男の詩を読んだものは誰もいない

47歳のその最後の日
自分が植えた薔薇のつぼみを見ながら
男は書いた
「詩人たるもの
死ぬ前に食べたものを
書き残すべきだ
一膳の飯、豆腐の味噌汁、おしんこふた切れ、茶
以上を食す」
震える手で書かれたそれは
陰毛のようにくねっていた

男の孫であり、
自称詩人であるところの
男は
ある日それを見つけた
大学ノート何百冊にも及ぶ最後にそれは書かれていた

孫であるところの自称詩人の男は
野心に満ち満ち溢れていた
「なるほどね、
でも、
全くつまらない詩だ
ポエムにもならない
簡単すぎ、
難解すぎる
ただの日記だね」

「全部、うそだね
死ぬ前に食べたのは
食べたのじゃなくて呑んだのだけど
酒だよ」

そのまま大学ノートはみかん箱に入れられて
押入れの奥の方へ






自由詩 名もなき詩を書く男の最後 Copyright 初代ドリンク嬢 2005-04-07 12:21:26
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