マツモトキヨシ
たもつ

マツモトキヨシの片隅に
僕のマツモトが売っていた
僕のマツモトのはずなのに
どこかちぐはぐで僕には馴染まなかった
僕のキヨシは売っていなかった
僕の、どころか、
普通のキヨシすら売っていなかった

マツモトはマツモトキヨシから産まれた
だからというわけではないけれど
マツモトキヨシのDNAを受け継いでいる
キヨシもそう
マツモトはキヨシを知らない
キヨシもマツモトを知らない
でもマツモトキヨシは知っている
僕も知っている
CMの最後のところも上手に歌える
マツモトキヨシ
開いててよかった
それはきっとセブンイレブン

キヨシは売っていないのか店員に聞くと
しばらく入荷しないと言う
胸のプラスチックの名札に
ナカザワススム、とある店員が言う
ススムは僕のじゃない
ナカザワはもっと僕のじゃない
ナカザワススムはススムは弊社では取り扱っていませんと言う
ナカザワは聞いたこともないと言う

他の店舗を回ろうと思い立って
ヨシダリエに電話する
ヨシダリエはまだ眠っていた
昨晩遅くまでマツモトと喧嘩したそうだ
キヨシとは喧嘩しなかったそうだ
眠そうなヨシダリエの声を聞いているうちに
マツモトもキヨシも本当は必要ないことに気づき
おやすみ、と言って電話を切る
僕が本当に必要としているのはヨシダリエだ
リエもいらない
ヨシダもいらない
本当に欲しいのはヨシダリエだ
ヨシダリエがあれば他には何もいらない

商品を並べるススムの手が
マツモトキヨシに美しく馴染んでいる
天気予報のとおりならば
今夜は都心でも初雪が観測される
初雪に馴染んでかじかむススムの手を思って
うらやましいと思った



自由詩 マツモトキヨシ Copyright たもつ 2019-12-02 21:06:52
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