鶏だって
こたきひろし

朝は一番に鶏が鳴いた
庭の隅の小屋のなかで

戦後十六年か七年の頃だったと思う
私は小学校に上がって間もなかったと思う

山間の辺鄙な場所は
食料品に恵まれていなかった
私は痩せこけていた

あの時代
忘れられない
いつも腹を空かせていた

食べられるものなら
田んぼの土手に生えた草まで食べた

都会から隔離された古里では
ほとんどが自給自足だった

主食は米と麦が半々だった
ジャガイモ。サツマイモ。トウモロコシ。自家製の沢庵。味噌も自家製だった。
トマト。胡瓜。スイカ。
畑で取れた。

そして肉

滅多には食べられなかったが
年に何度か
父親が
鶏小屋から一羽を選んで
潰した
それはまるで死刑囚が鉄格子から出されるように

潰すとは
殺して包丁で解体する事だ

それはとても残酷な光景だったが
子供らの前でも父親は躊躇いなくさばいた

私は興味深く
眼を反らす事もなく
その一部始終を見ていた

そして夜には料理された

翌日の朝
小屋のなかで
鶏は一羽分欠けて
鳴いた

いつもとかわりない鳴き声の筈だ
しかし
子供だった
私の耳には
悲しくて泣いているように聞こえた

悲しくて泣いているように




自由詩 鶏だって Copyright こたきひろし 2019-11-03 20:55:03
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