イエスタデイをうたって
本木はじめ
きみがまだ少女の頃はぼくもまた少年だった すれ違う駅
きみと向かいあって話した教室が世界のすべてであったあの夏
きみの吸ってたマルボロライトを吸ってみる吐き出す煙が重い七月
「やっぱりさ、金魚は赤よね」祭りの夜むじゃきないいわけ聞いた八月
間違えて覚えた歌詞も気にせずに歌うあなたを見ていた九月
おぼえてる?日没間近の森のなか交換日記を埋めた十月
ありふれた終末思想を語るきみ十一月の週末の意味
友だちがひとりふたりといなくなりカメラの残数多き一月
思い切り投げたケータイきみに借りふたりで聞きつつ探した二月
話してる途中であなたうわのそら、うつむくわたしに舞い降りた雪
子供でも大人でもなくわたしたちただのふたりであった三月
コンビニを無人にしたねわたしたち小春日和の冒険だった
さわやかな風が一陣吹いてきて何かが変わった気がした四月
奪い合ったリモコン遂に電池切れ何も付けずに過ぎ去る五月
愛のあるケンカだったねあの頃はグローブなしでも受け合えていた
あなたからもらったCD無傷でも見えない傷の多い六月
ソファーから立ち上がるきみまぼろしでそれでも声をかけようとする
あの頃がすでに思い出だとしたら、イエスタデイをうたってあなた