予感 その2
たちばなまこと

<早朝のめまい>
無数の針が 雪の地平線に整列してゆく
朝日に小刻みに照らされて
瀬戸際の美しさを
告げている
銀色の予感はめまいの中で
怖れながら起立する
人肌の息を含んで 撚りをかけた
ゆるい双糸を 異国情緒でまとうと
小さな人になったからだが 曖昧な浮力に
囲われる
三つ子のかぞえうたを 遠くに聞いて
流れるまでに満たない半端な涙を 中指に乗せて
表面張力のいじらしさに 重力を再び感じたら
もう
崩れそうになる


<臆病な潜在>
意識を取り戻しても ここは
ガラス・フィルム・フラワーの繁殖地
花びらは 幾重にも溜息をつくけれど
爪で弾いたらすぐに はらはらと
小さなかけらになって 根元へと
おちてゆく
薄桃色の部屋に 咲いて 埋め尽くして
やがて呼吸となり 肺につもる
女を抱いて 抱きしめて しめつければ
乳房の肌理の油断から
鋭くて 痛いくせに 甘い
かけらが 砕けた形をして 溢れて
抱いた人の胸元に溢れる汗に 溶けて
抱かれた人の脇腹を 伝い
花たちの根という根に 手を伸ばして
なじんでゆく
彼女らは輪廻しながら
甘くて痛い遺伝子を 守り続けている
根を持つものはみんな女で
この部屋で女を抱きしめる
その人だけが唯一 ひとときの
男なんだ


自由詩 予感 その2 Copyright たちばなまこと 2005-04-05 16:17:18
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