夜中に目を覚まして
こたきひろし

欠けているものを持っていた
人より過分に持っていた

幸福のレベルゲージが
あがらないのはそのせいかな

欠けている月の明かりに
夜が浮かび上がる

夜中に目を覚ましてしまうのは
そのせいかな

遠く離れたところからサイレンが聞こえてくる
胸が騒ぎ出す
不安がよぎる

定年の一ヶ月以上前に
事前に何の相談もなく退職を勧告された

会社は理不尽だった

社会は冷淡だった

後輩の同僚は
冗談とも本音かもしれない言葉で言った
「ホームセンターでロープ買って来るようですか?家のローン残り五年ぐらいあるんでしょ」

言われたから私は言って返した
「ロープ買って来るよ。お前の家の庭の木にでも引っ掻けてぶら下がってやるよ」
言ってやった


すべてに納得いかなかったが
親族企業の決断は覆らなかった

私は解雇された
自分からそうしてくれと申し入れた
会社は渋々受け入れた

私は失業し無職になった
退職金と失業保険ではいづれ行き詰まるが
そうしている以外方法は見つからなかった

ハローワークに六十歳以降の募集案件はないに等しかった
あっても極僅かで、低い時給で短時間だった

相談員もそれを見切っていたから
積極的にも親身にもなってはくれなかった

私はすっか気力を失ってしまい
無為な日々を浪費してしまうばかりだった

欠けているのものが
人より過分にあったから
会社は定年で私をクビにしたんだろう

そんな思いがたえず私を苦しめた
そんな自分に再就職口が有るとは
考えられなくなっていた

不眠の夜が続いてしまった
のはそのせいだ


自由詩 夜中に目を覚まして Copyright こたきひろし 2019-10-09 04:47:24
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