希望と絶望
こたきひろし

一戸建てを買ったのは結婚して五年ぐらい経ってからだった。
独身のままで一生終わったらアパート暮らしで生涯を閉じたに違いなかった。

住宅購入を決断して取り合えず実家の父親に電話で報告したら、いきなり怒りだして電話を切られてしまった。
無条件に喜んで貰えると思ったのに吃驚した。
納得いかなくて直ぐにかけ直すと母親が出て父親に繋いでくれた。
「この年寄りに家の借金の手伝いでもしろと言うことか?」
と聞かれた。
実家にそんな余裕ないのは承知していたから、そんなつもりは毛頭なかった。
嫁さんの親が頭金を出してくれるからと言ったら、急に大人しくなった。「そうか、そんならいいが、父ちゃんは手伝ってやれんぞ」と父親はきっぱりと口にした。
「そんなのわかっているよ」と俺は返事した。
「嫁さんの実家が手伝ってくれると言うから、俺は決めたんだよ。父ちゃんは心配しなくて大丈夫だから」
と言ったが、自分の親からはいっさい援助を貰えないのは、想像がついでながらあからさまに言われるとがっかりしたし、冷たい気持ちに襲われた。
と同時に嫁さんの実家に申し訳ない気持ちになってしまった。肩身の狭い気持ちになって付き合わなければならないと覚悟もした。

そんな日から二十四年がたった今。
嫁さんの両親も俺の両親も他界した。
俺の実家は棲む人を失い山間の土地に埋もれる空き家になってしまった。
嫁さんの実家には、嫁さんの姉家族が棲んでいる。義理の姉さんがお婿さんを貰い家を継いだのだ。
義理の両親がいた頃は頻繁に顔を見せたが、今は色々あって疎遠になってしまった。

相続の時に結構揉めたのがその発端になっていた。
すべては欲に絡まれての結果だった。
浅ましい欲に。
しかしその浅ましい欲は自分の実家の相続の時は抑制された、
なぜなら実家に残された資産は山間に埋もれた貧相な家だけだったから。



散文(批評随筆小説等) 希望と絶望 Copyright こたきひろし 2019-09-30 01:22:13
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