松阪牛と自称詩人
花形新次

「松阪牛と自称詩人のどちらを殺すか選べ
さもないと地球は破滅する」
サタンにそう言われ
俄に救世主の役割を与えられた俺は
2.5秒を掛けて
「自称詩人を殺る方で」と答えた
松阪牛を殺して
すき焼きを食べるという
大きな欲望を凌駕するほど
涙と鼻汁を垂れ流して
命乞いをする自称詩人の顔が
反吐が出るほど醜く不様なことで
殺意は頂点に達していた

自称詩人が屈強な黒人二人に
処刑場へ引き摺られていくなか
サタンが
「おまえさ、人間じゃん
本当にあいつで良かったん?」
と聞いてきた
タバコを深く吸い込み
吐き出しながら
俺は「全然」と言った

「存在意義がないんだよ・・・・」
「ああ、やっぱ、そっかあ~、そうだよね~」

その後は会話も弾まず
明日早いからと
サタンは処刑場にも寄らず
急ぎ帰って行った







自由詩 松阪牛と自称詩人 Copyright 花形新次 2019-09-14 22:51:57
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