僕たちは風の援軍となる
la_feminite_nue(死に巫女)
風の通り道に、僕たちはいたんだ。
僕たちは風の援軍で、
風は僕たちのことを気にも留めなかった。
ああ、イチョウの葉が散ってゆく。
僕たちの小さな小さな逞しさは、
彼ら(風)にとっては微々たるものだった。
風は、僕たちを素通りしてゆく。
ああ、イチョウの葉は僕たちを置いてゆく。
僕たちが悲しみを忘れ去るまで、
風は僕たちの周りを廻り続けるだろう。
そこに僕たちの切なさの影を置きながら。
ああ、僕たちのイチョウの葉よ、希望よ。
僕たちが淡く胸に秘めている思いを、
風は気にしない。風に意識はないのだから。
僕たちの反映としても、その野太い
唸りだけをあげて、イチョウは去ってゆく。
風は僕たちを残してゆくんだね、きっと。
風は僕たちの悲しみを見ないのさ、きっと。
そして、僕たちの慈しみをきっと見ているんだ。
いつか生まれる命よ、ああ、イチョウの葉。
僕たちが大きく腕を振る時、宇宙は振動して、
それは無限へと向かって波を立たせるのだそうだ。
風はその無限を優しく愛撫してゆく。
ああ、イチョウの葉が散ってゆく。
大人になった僕たちは、悲しみを忘れ、
成長きくなった僕たちは、優しさを捨て去り、
ただ風の援軍となる。補給部隊のように。
ああ、小さなイチョウの葉に込められた思い。
故郷の街並みにも屹っていた、僕たちのイチョウの樹。
彼らが奏でる無音の旋律こそが、
僕たちに今そっと頬を寄せ、たぐり寄せる。
ああ、小さなイチョウたちの呼び声が聞こえないか。
僕たちはただ風の援軍として生き続けられる。
そうして神がいるのならば、届いてほしい。
どうかこの風が、嵐にはならないようにと。
ああ、僕たちは風の援軍となる。イチョウの葉はそれを見ずに去ってゆく。