可哀想な人たち
こたきひろし

知り合いに実に可哀想な男がいた。

俺と同様に洋食のコックだった。東京の下町のレストランで見習いから始めて、そこに十年近く働いた。
なんとか一人前の職人になった頃、父親に呼ばれ郷里の町で父親の資金力で店を出してもらった。
開店当初は両親だけで手伝い、その内に父親が若い女を連れてきた。何でも父親はレストランを出す前までは、スーパーマーケットで働いていて、連れてきた若い女もそこで一緒に働いていたらしい。
父親が気にいって何かと面倒や相談に乗っていたとか。若い女も父親になついてくれたとか。それで父親は長男の嫁にと目論んで口説きレストランを手伝わせた。
知り合いは大人しくて真面目一方の男だった。
そのせいか女には奥手だったから、それまでに付き合った相手はいなかった。
それが、父親の目論んだ通りにふたりは関係を持ってしまった。
知り合いの話では、若い女の方から積極的に誘惑してきたと言っていた。
若い女は妊娠し、結果的に入籍した。
出産して暫くは避妊した。丁度その頃避妊具の訪問販売がやって来たから、大量に購入したらしい。
そこまではよかった。のだが、それから間もなく嫁さんが突然実家に帰ってしまった。
それきり帰らなくなってしまい、別れてくれと言ってきたというのだ。実に理不尽な話であり、そこには到底受け入れ難い原因が判明した。
嫁さんが知らない男と一緒に突然に店に現れて、衝撃的な告白をしたらしい。
「実はあたしはこの人と長く付き合ってきた。お腹の子供もこの人の子に間違いないと思う。なのに何かの気の迷いであんたと一緒になってしまった。でもそれは体だけ、気持ちはあんたにはなかった。」
あり得ない事実を告げられて知り合いは呆然とした。

それで大量に購入した避妊具はいっぺんに無駄になった。

その話を聞かされて俺は内心笑ってしまった。
勿論、顔とは裏腹な対応ではあったが。

親の力で店を出してもらって、親のお膳立てで女が出来て、おめでたく子供も出来たなんて、俺にはおもしろくも可笑しくもなかったからさ。


他人のしあわせは妬む心をわかせるだけだったし、反面、不幸は一服の清涼剤に等しかった
それが大概の人の偽らざる本心だよな。
だろ。

それに詩を書いてるからって人格に優れている訳でもない。

第一
俺も可哀想な奴に変わりはないんだし。


自由詩 可哀想な人たち Copyright こたきひろし 2019-08-25 05:33:48
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