「黒い果実」の詩人に 
服部 剛

みなとみらいを見渡す 
横浜のビルのカフェで 
ひとり珈琲を飲み 
命日の近い詩人の生涯を偲ぶ 

若き日に戦地で被弾し 
負傷兵として帰国してから 
九十三年の人生を終えるまで 
からだの深い傷口が、うずいた 
詩人の御魂みたまに語るように
目を瞑る 

――私の祖父は戦後
  体を病み、若くして世を去り 
  祖母の人生は変わりました 

――母方の祖父は戦後 
  心を病み、夜になると奇声を発し 
  祖母の家庭は今にも崩れ落ちそうでした 

――障がいのある私の息子は 
  あなたが世を去る二十日前に 
  産声をあげました 

――戦地の記憶を胸に 
  「黒い果実」という詩集に封じた 
  あの日の叫びが 
  時を越えて天から地へと吹き渡る 
  風になりますように 

向かいのビルの窓硝子に、映り 
ゆらめく太陽も 
すでに姿を消して 
みなとみらいのビルの明かりは 
あちらこちらに…灯り始める 

八月の太陽が沈む前に 
両手を合わせる 
平和への祈り 

令和の時代の夕空へ 
吸い込まれる  






自由詩 「黒い果実」の詩人に  Copyright 服部 剛 2019-08-16 00:14:28
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