南の島で君は
Lucy

思い出の欠片も落ちてはいない
生まれて初めての南の島
君はそこで何を探したのだろう

たなびく細長い雲に薄くスライスされながら
溶岩のような輝きを溢れさせ沈んでいく
座間味の濃い夕陽
崖の上から眺めながら
君はなぜだか
昔見た利尻島に沈む夕陽を思い出していた
あの時は深い秋だったから
空の色は暗く海も冷たい色で
夕陽だけがくっきりと赤い重い球として空にあり
水平線にそそり立つ島の向こうに沈んでいった

季節が違うだけなんだ
地球からうんと離れたところにあるたった一つの太陽を
視点を変えてみているだけ
星の王子様がちょっとだけ後ろに椅子をずらして
一日に何度も夕日を眺めたみたいに

明かりの少ない島の夜空は
本当にミルクを流したような銀河
たくさんの星が光るので
夏の大三角形もみつけづらい
北斗七星もカシオペアも、
白鳥座だって
夏の北国の海岸で友と見上げたことがある
たださそり座のくるりと曲がったしっぽの先まで
見えたのは初めてな気がした

海も宇宙も繋がっている
時間も
浦島太郎のように時間を飛び超してしまうこともなく
明日にはまた日常の継ぎ目に戻るのだと君は思ってみる

水族館の大水槽に群れを成し
キラキラ光りながらマスゲームのように泳いでいた
うつくしい魚たち
笑った顔に見えるマンタや
ゆうゆうと威厳に満ちて回遊する体長八メートルものジンベエザメを見上げ
まるで海の底にいるみたいだと思いながら
前の晩、公設市場の水槽の中にひしめいていた伊勢海老たちや
ひもで縛られて生きていた大きなカニを思い出した

そして初めてシュノーケルで息をしながら
ライフジャケットとフィンを使って泳げない君が水に浮き
サンゴ礁の海をのぞいた
目の前をよぎる小さなマリンブルーのさかな
黄色い縞模様の魚
 
無人島の砂浜に無数に落ちていた
波に削られかどがすべて丸くなった
しろい珊瑚の死骸の欠片を 
君はいくつも手のひらに拾った




自由詩 南の島で君は Copyright Lucy 2019-08-03 16:30:27
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