寂れた町には
こたきひろし

寂れた町の
寂れた市街地には
寂れた商店が軒を並べていた

その一角
寂れた食堂には
すっかり歳をとってしまった看板娘と
厨房に立ってるその亭主が
うまくもないまずくもない
料理を売って細々と営業していた

店頭の料理サンプルは
もう何年も放置されたままで
埃を被っている
それが客足を遠退かせる要因になっているに間違いないが
全体が寂れた町
全てが寂れた商店街では
一店だけ眩しく輝かせる訳にはいかない
そんな事したら著しく馴染まなくなるだろう

食堂を経営している夫婦は金に困ってはいなかった
むしろ使い道に困っていたのだ

まだ寂れた町が寂れていなかった頃
商店街は繁盛し
食堂の看板娘は若くて可愛くて客商売が上手だった
両親の経営する食堂の一人娘で
評判の料理に加え彼女目当てに来る客で
連日忙しかった

だが その内に
年頃の看板娘に男の虫がついた
厨房で働いていた若い男で
最初は両親共に反対した
特に母親の方が気に入らなかった
娘に男がいては男の客足が遠退きはしないかと心配したからだ
それも身近にいては客は敏感に反応するだろうと
勝手な思惑で反対した

母親は若い男をクビにした
父親はさすがにそれには反対したが
嫁の勢いに逆らえなかった
娘は無理矢理好きな男と引き離されたが
母親には従順だったから
その内に諦めて忘れた

母親は人手不足のままではやっていけないのでと
次は所帯持ちの職人をどこからか見つけてきた




新しい職人は腕も気っ風もよかった
おまけに男の色気もたっぷり持ってた
店はオーブンキッチンになっていたから
カウンター越しにその姿を眺める女の客が増えた

店の主人である父親は穏やかな気持ちではいられなくなった
女客だけならともかく自分の女房さえも変化を見せていたからだ
その内に大事な一人娘さえ男にいちころになってしまった

妻も娘もいつの間にか父親に興味も関心もなくしていた頃には
手遅れだった
母娘はいつの間にか所帯持ちの職人のまな板の上で料理されてしまった後だった

父親はいくえ不明になった
一応捜索願いは出されたが消息は絶たれたままだった

所帯持ちの筈だった職人は独り身だった
母親はなんで嘘をついたのか

世間のほとぼりが冷めた頃には
職人は実質店の主人と入れ替わっていた

母親と娘は
職人の言いなり思うがままだった

寂れた町の
寂れた食堂には
過去にそんな物語が隠されていた






自由詩 寂れた町には Copyright こたきひろし 2019-07-27 09:16:55
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