夜中に我が子が泣きだした
こたきひろし

若い夫婦。若い父親と若い母親。
夜中に子供が泣きだした。二人共に睡眠を無理矢理むしり取られた。
寝床から起き出したのは母親の方だ。
明かりをつけるとベビーベッドの上で泣いている我が子の側に行った。
抱き上げるとオムツを確かめる。しているようだ。
父親は明日も仕事。朝が早い。
如何に我が子とはいえ夜泣きは苛立つ。
つい声を出して言ってしまった。「さっさと済ませておとなしく寝かせてくれないか」
その言葉に母親は声を大きくした。「赤ちゃんは泣いて知らせるの。泣くのが商売なんだから、父親だったら温かく見守ってぐれない」
その言葉に父親は何も言えなくなった。
仕方ないので布団を頭から被る。
その様を見て母親は「何よ自分ばかり」と苦々しく夫に目をくれた。

オムツ替えをしながら母親は聞こえるように言った。
「女は大変なの、死ぬくらいの痛みにたえて子供を産んで、その先は育児に追い回されるんだから。」
父親は布団に潜りこんで聞こえない振りをした。
それでも母親は続けた。「それに比べて男はいいわよ。気持ちいい思いだけするんだから。」
その言葉に父親はカチッときてしまう。
「それが女の役目だろ。男は外で仕事して必死になって家族を養っていくのが役目なんだからさ」
その言葉に母親は苛立つ。
「やめてよそんな風に言うの。男が立場が上だって言いたい訳?」


お互いの言い合いはその後も続いて、男と女の論争は
子供がすやすやと寝入った後も夫婦の睡眠を妨げてしまった。


散文(批評随筆小説等) 夜中に我が子が泣きだした Copyright こたきひろし 2019-07-14 08:38:00
notebook Home 戻る