空笛
岡部淳太郎

空の中に沈め
どこからか
笛が聴こえる
それは君を呼ぶ笛だ
やがて君も
死者の隊列に加わる
その時のために
空が君に向けて吹く笛だ
山の稜線があまりにもくっきりと際立っていて
空はあまりにもはっきりと
この世からかけ離れている
昨日君は生きて
今日君は生きていて
明日も恐らく君は生きているだろう
だがいつの日かそう遠くない夕暮の下で
君は死ぬ
その時のために
それを予告するかのように
空の笛は雲を風をつらぬいて
君のもとへ届く
それはただひとり君の耳にだけ聴こえる
それは君だけの魂の問題だからだ
いまはただ
空に向かって落ちよ
そして空の笛のその音階が
君の奥深くしまわれたたしかなものを
ゆさぶるにまかせよ
君は立ちつくして
笛の音を聴く
こんなにも悲しい青空を
君は見たことがなかった



連作「夜、幽霊がすべっていった……」


自由詩 空笛 Copyright 岡部淳太郎 2005-04-01 23:20:52
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夜、幽霊がすべっていった……