アンテ


街のはずれに住む少年は
毎日小さな畑を耕して
わずかな食べ物を得てひっそりと暮らしていた
その日も畑を耕していると
一人の旅人が街にやってくた
旅人は大きな重いカバンを背に負っていて
中にぎっしりと種が詰まっているせいで
ほんの数歩進むごとに
休憩しなければならなかった
カバンの開いた口には
小さなうす桃色の花が咲きそろい
枯れると大量の種になって
口から溢れて地面に落ちた
種は芽を出してみるみる育ち
食べ物や道具になったが
どれも腐っていてとても役に立たなかった
街の住人たちは腹を立てて
旅人を街から追い出そうとした
ところが旅人の身体は重く
持ち上げようとしてもびくともしなかったので
カバンを無理やり奪い取ろうとした
カバンは旅人の身体にぴったりと貼り付いて外れず
強引に引っ張るうち
裂けて大量の種が飛び散った
種はみるみる育ち
街じゅうをガラクタで埋めつくしてしまい
旅人の居所も判らなくなった
人々は不平を洩らすばかりで
悪臭の漂いはじめた街をさっさと見限って
他へ移り住んでしまった
一人残された少年が
来る日も来る日もガラクタを片付けつづけるうち
旅人が立っていた場所に
種が一粒転がっているのを見つけた
家の畑に植えて
水をやって育てたところ
みるみる育って
旅人ができあがった
旅人はやっぱり背中にカバンを背負っていて
畑に種をまくと
逞しい男たちが何人もできあがり
あっという間にガラクタを片付けてしまった
旅人は少年に種をひとつ手渡すと
重いカバンを背負って
何度も休憩しながら歩き去った
少年は窓辺に種を転がして
毎日眺めて過ごしていたが
ある朝
種をつかんでごくりと呑み込み
旅支度をして街を出た
彼方までつづく道にそって
ガラクタがいくつもいくつも転がっていた



自由詩Copyright アンテ 2003-11-20 01:57:28
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