石の顔
服部 剛
自閉症をもつ息子の
小さな手を引いて
特別支援学校のバス停まで
いつもの道を歩く
――はやあるきっ、はやあるきっ
かけ声と共に
到着時間まで、あと3分
息子が地べたに這いつくばり
坐っては起こし、坐っては起こし
遠くから
青いバスがやってくる
乗車口で添乗員さんに、リュックを渡す
よいしょっと、息子をあずける
(無垢な笑顔が、パパをふり返る)
子どもたちを乗せた
登校バスは小さくなってゆき…
見送るママやパパと
ひと息の安堵を交わし
それぞれの日常へ、戻る
*
知的ハンディを抱える子どもを育てる
日々の場面の現実は
僕の小さな脳では計れないまま
体力を消耗している
けれど
今朝は家に戻る通り道で
はたと立ち止まる
(僕に、笑いかけていた)
アスファルトに埋もれ
にこやかな目の曲線の2つある
半月型の石の横顔が
(遠い背後の頭上に昇る、朝の太陽は
できの悪いパパの背中を照らしていた)
少しだけ身を軽くしたママとパパが
せちがらい世の日常にそっと隠れた
石の顔と出逢えますように