葉桜の季節に
帆場蔵人
忘れられない事を
確かめるためだけに
息継ぎを繰り返すのだろう
(葉桜は永遠に葉桜やったわ)
灰に塗れ肺は汚れて骨肉はさらされ血の流れは遠く故郷のくすんだ川面のような在り方しか出来ない、ただおはようを繰り返して、朝の光に溶け入ることすら出来ずに不透明に透けて濁るしかない、生きているから倒れることもあって、天上には青が置かれてあり、そこには瑞々しい緑と掠れた紅いろが浮かんでいて、つかの間、止まる呼吸、凪いだ湖に映る景色をみおろしているよう……
(葉桜は、永遠に、葉桜やったわ)
と息を吐きこぼして
こんな瞬間を今、い、き、て、い、る、よ、とつぶやいていけば葉桜は永遠に葉桜に変わって、散りゆく花弁の表裏と指先は決して触れ合うことはないのだ、夏に身を進めたのだから、まだぼくは夢に溺れられない、やがて雲が舟のようにあらわれ、空の青さをふたつに割いていく、いつか二人が観た故郷の湖の水面のように