室内
石村
低気圧が近付いてゐる午後。
少年が鉛筆を削つてゐる。
室内に、新しい芯の匂ひが満ちる。
「隆、下りてらつしやい」
と、羊羹を切り終へた母の声が階下から聞こえる。
隆が階段を下りて行く音が段々と遠くなる。
亡くなつた姉が部屋の奥から出てきて、机に無造作に置かれた隆のランドセルを開け、物差しを引つ張り出して二、三度、刀を振るやうに上下させてから、物差しを机の上に置き、かへつて行つた。
芯の匂ひが、室内にうつすらと残つてゐる。
(二〇一八年三月四日)
自由詩
室内
Copyright
石村
2019-03-24 17:48:06
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