ある面影の臨終に際して
Sisi


時よ止まれ


未だ少年達が眠る森の奥で
狼達の亡霊が悲愴な遠吠えをあげる
彼らを悲しみのうちに留めてしまったのは
恐らく私の責任なのだろう

瑞々しさを失った庭園は
朽ちてゆくドライフラワーのように密やかに微睡み
少年達の眠りを妨げぬよう
夕焼けの祈りは空の海へと向けられる

皆が笑っている
誰かは泣いていたかもしれない
気恥ずかしそうに
私達は手を繋いでいた

皆が黙っている
誰かは呟いただろう
それを知っているのは
きっと私だけなのだ



肩越しの風に呼ばれて
私はその度に振り返ってしまった
回転木馬のように変わらぬ景色が
あまりに愛おしすぎたのだ


この瞬間とは、
過ぎ去ろうとしているかつての私達なのだろう
遠ざかる記憶の種が芽吹かせた
かろうじて届くほどの優しい両手なのだろう

何もかもが愛おしすぎたのだ

そうでなければ、
いよいよ解けてしまいそうなその両手に
どうして別れの言葉など、
手向けることがあるだろうか


いま、私は
肩越しの風にもう呼ばれることもなく
西へ、西へと沈んでゆく


時よ止まれ、あなたは美しい。





自由詩 ある面影の臨終に際して Copyright Sisi 2019-03-19 23:29:51
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