あなたの夢をはじめて見た
ただのみきや
夢の中となりに座ったあなたと話すことが出来なかった
夢でもいいから会いたいと願ったあなたがすぐ横にいて
あなたはもはやあなたではなくわたしの心の影法師なのに
あなたを知りあなたの心を慮ることで虚像すら燐光を放ち
清流の魚を掴むかのようそこに在りながら躊躇して深みへ
消えてしまうことを恐れては手をこまねいて見つめていた
目覚めても諦められずに再び眠りの中へ追いかけて
いつもより長く 次から次へと夢の中
あなたを求め どんなに夢が変わっても表象が変わっても
失くしたものを探すように
決して間にあわない待ち合わせに急ぐかのように
飛び乗った船の人込みに恋人の姿を見つけられない若者
初恋の相手が知らぬ間に引っ越していた少年
記憶を失くした巡礼のように
言いえない衝動にかられ彷徨い続けやがて
日も高くなったころ
見慣れた天井の下で目を覚ます
岸辺に打ち寄せられた男の中から
共に身を投げたはずの女の顔形が白く溶け
絵具で描いた夏の太陽のように輪郭すら失われて往く時の
泡立つ狂おしさが一瞬過ったかと思うともう
時は時計が磨り潰す塵芥の原料でしかなくなって
感覚は同期する何事もなかったかのように
けれどもポケットには一枚のメモがあり文字は滲んで読めないが
ただ香りだけが置いて来たものを未だ炙る熾火なのか
遠くて近い痛点が座標も得られず彷徨っている――そう
夢の中となりに座ったあなたと話すことが出来なかった
夢でもいいから会いたいと願ったあなたがすぐ横にいて
《あなたの夢をはじめて見た:2019年2月11日》