水溶性の、誰かの
霜天
おはよう
で、今日も誰かが溶けていく
それでも、空を見上げることを止められなくて
いつの間にか、あちこち穴だらけになっている
使い古しの気持ちを手紙に残して
あなたもすっかりと溶けてしまった
結局今日は降り止まなかったので
あなたが一面で水溜りしていて
飛び越えるようにして歩くしかない
一度踏み込んでしまえば
ずぶりずぶりと
沈んでいくだろうから
身動きのとれない軒下で
雨宿りが定員オーバーで
はみ出した人たちが少しだけ溶けてしまう
そんな世界
夕暮れしているビルの群れで
帰りたくなって、どこかへ
急ぎ足で引き返すと
足元から溶けて、何も残らない
誰も、水溶性の、動き出せずに
向かいのビルの喫茶店では
続々とそれらが溶けていく
押し込まれるように乗り合わせた人たちが
溶けかけた体を払い落としながら
そういえばもう春なんだね、なんて
笑う