花の分身
服部 剛
植木鉢の
萎れたシクラメンに
水をそそぐ
日中は出かけ、帰宅すると
幾本もの首すじはすっと伸びて
赤紫の蕾がひとつ 顔をあげていた
先週、親しい伯父が病に倒れ
ふいに訪れた伯母は
玄関先で妻に、鉢を渡した
「この花を主人と思ってください」
* * *
病院のベッドに横たわる伯父は
両手にぶ厚いミトンを嵌められ
不自由な体のまま
薄っすら涙を溜めていた
傍らの椅子に座った、僕は
痩せた肩に手をあてて
静かに、目を瞑る
――真白いキャンバスには
午後のベランダの風景画
僕は、窓を開き
日の当たる場所に
シクラメンを置いた
まぶたを開けると
伯父の頬に窓から、陽が射していた