川の底を覗き込む
こたきひろし

川は切り立った山肌に沿って流れていた。
夏になると近隣の子供らが集まって水遊びした。炎天の空の下。子供らの歓声が山あいにこだまする。

山肌から突き出た岩の周りはかなり深くて、自然とその辺りが子供らの遊び場になっていた。
小学校の高学年から低学年ばかりの男女。大人は誰も付いていなかった。
危険な川遊びだがそれを止める保護者はいない時代だった。
子供らは水着なんて誰も持っていない。男の子も女の子もパンツ一枚。そんな時代だった。

周辺は辺鄙な土地で粗末な農家の佇まいが点在していた。それぞれの家々は現金の収入が乏しくほとんどが自給自足の生活をしていた。
なのに子沢山の家が多かったのは著しく娯楽に欠けていたからに違いない。だから夜は長く楽しみは限られていた。
子が沢山産まれてもその分まともに成長し大人になる子供は限られていたので数はうまく調整されていた。
途中でその多くが死んだのである。その死因は様々だが、生き残る者は生存するための闘いに勝残った選ばれた子供だった。
血肉を分けた子供らの間にも食の奪い合い。病弱で体力のない子供は真っ先に消えていった。

危険な川遊びは子供らの命をふるいにかける重要な役目を担っていた。
元々娯楽がないせいで身籠ってしまった子供らだから、暗黙の了解のもとに口べらしの方法として有効であった。
全ては貧困と人間の悲しい性のなせる結果だったが。




自由詩 川の底を覗き込む Copyright こたきひろし 2018-12-09 00:00:35
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