なまえ ひとり
木立 悟






人の子に似た声の機械が
荒れ野に山と積まれていて
自分以外を呼びつづけている


舌先に燈る火のなかで
ひとりの鹿が会釈する
目を閉じた笑み 風の音
水のにおい


治らない傷が増える夏
消えたと思えば 既に首に在る
重さを散らす
縄状の風


人のふりをした
あの夜たちは
渇くはずもない咽奥に
冷たい水を流し込みながら


耳元をすぎる
ひび割れた葉
寒さと笑み 小さな子ら
鹿を雨に連れてゆく


近づく曇に
差し延べられる手
水と無音
草がつくる羽の波


小さな菓子からこぼれたかけらを
かけらと同じ大きさの鳥が啄む
夜にあいた穴の向こうから
次の夜の灯が滴り落ちる


左目の上の水槽に
痛みと虹と蜘蛛と炎
落ちては沈み
まぶしく消える


凍りついた水母の径
ひたすら放たれ 迷子の言葉
荒れ野にむらさきに降り積もり
ひとりの名前を描きつづける


















自由詩 なまえ ひとり Copyright 木立 悟 2018-09-15 20:21:33縦
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