花嵐
田中修子

嵐は
吹きすさび
すべてを舞い散らかしているよ

母の死骸は花びらとなって
わたしの風に抱かれている
天高くつたい
成人後にまた再生した
死によってこそ記憶された
おおくの命を
そそがれて

髪から
爪まで
赤く血まみれであったことが
ほの暗く示す

「愛してる」

かみちぎられた喉笛から漏れる音が形作る
赤んぼのよなたどたどしさ
血まみれのおとなの
赤んぼだ

焼きあがったばかりの熱い骨には
胸焦がれてもとどかない
すこしやさしいピンク色をしている
老いることを恐れて牛乳を飲んでいたからか
骨盤がとくにがっしりしてる
わたしの母
もう二度とふりむかぬ母

「それでも愛してる」

だれかがだれかを
格調だかくあざわらう
ひと瞬きのうちに
だれかがだれかを
いないものとする
完璧なほほ笑みの沈黙のうちに

親が子を
子が親を

……す ゆるさない ゆるす ゆるさない ゆ……

花占は吹き飛ばされた

わたしを
指させ
骨の花びらの
あらあらしく天へとどけよ

嵐は
いま来た


自由詩 花嵐 Copyright 田中修子 2018-09-02 17:22:25
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