日蝕
為平 澪

腕には 花の痕
ぬるくなった前頭葉から 真昼が滴り
効き目のないエアコンの風が
指先を 揺らしている
デコルテの青白い呼吸が 唇から漏れる
白熱灯の陰り 閉ざした瞼から
上手に笑う あなたが潜む

 (ひらきなさい。怖れてはならない。
         二度目に死ぬことも。)

空から降ってくる太陽の重さと熱さを
女の水だけで蒸発させる 宴が繰り返される

鏡が 私を吸い込み 奪い続け
肉体の輪郭は溶けて フラスコを濁してゆく
実験は繰り返され 私の眼は
アルコールランプの炎に 投げ込まれたまま
燃え続けている

夜 ちぎれた声 途切れて 聞こえる
あ、い、あい、ああ、い、、、
あ、い、いいっ ああああ、い
いっ、あ
い 、。  あ、い、い、あああああ──ッ、、
(。     。       。
(( 。。  。      。
。  。。 。 
、、、、( )。その先が いえない

蛻になった私の部屋で 心臓を鷲掴みにして
笑う男がいる

 (新しい太陽を植えてあげよう。
     今度からはこの光で動きなさい。)

真夜中に巨星がうめき声をあげては
流星になって滅ぶ
そのたびに私の子宮から月見草が咲き乱れ
腕に花の残骸を押し当てて刻み込む

喉から、( ○。 )が、生えて滴り落ちる時
ああ、また、私の上で
無口な月が 太陽を餓死させていく


自由詩 日蝕 Copyright 為平 澪 2018-08-19 00:16:37
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