陽の当たる部屋、刹那と箱と
千月 話子
失いかけた
午後の空白から
歌が聞こえる
「バイバイ」と言っているんだね
とどまらない風が連れて行く
小さな声の始まり
先端が少し冷たい
君のフライングが
僕らの明日に
霧をかけた
春の雨 細かい飛沫
長い影が いつまでも取れない
長い長い 余白に何を語ろうか
忘れないけど 『さよなら』
表面を綺麗に磨いて
いつでも取り出せる
小さな箱に入れてしまおうか
まだ思い出にならない 想いが
ぐずぐず と 後ずさりする
長く 冷めた 午後
風が飛んで行く
霧が消えて行く
君は 笑ってる?
箱の隅
少し湿った
雫は
塩辛い
雨の跡で
陽の光り
柔らかく
照らし出していた
部屋で
歌ってる
かすれた声を
やがて
乾いた
箱に入れて
軽く蓋を閉めたんだ。
それは
セピア
まだ 生まれたばかりの
少し 明るい・・・。