ちいさなちいさなことばたち
田中修子

「錯乱」

しをかくひとは
胸や、胴体に肢体、に
まっくらな、まっくらな
あなが、ありまして
のぞきこむのが
すきなのです
のぞくとき、
のぞきかえされていて、

くらいあなからうまれますよ
母や父や人魚のなみだや
星のうく夜を
さんらん
します

あなた

「花よ咲け鳥よ飛べ」

体を引きちぎりたい
にくしみも
うらみも
かなしみも
生きておればこそ

死んじまったあの子らの
想い出を
背負ってゆけるのも
生きておればこそ

死にたいのも
生きておればこそ

いつか
叫びつづけ流しつづけた
悲鳴は涙は
火が虫が
地に返してくれるから

いつか

花の咲くように
鳥の飛ぶように

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「ふりかえる」

じょうぶな
みひとつで
どこどこまでも
そらをつきぬけて
ひとのあいだをただよい
うみのはてさきまで
いきてゆけていた
くるしみの
ひびが
ただひたすらに
なつかしい

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「麦茶」

五月の
雨の翌朝に
冷蔵庫で冷えたキュウリを
かじると
歯が
シミシミした
おなかが
クルクルした
麦茶の湯気

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「ねどこに花は散って」

終わってしまえば
いい生き方だったと
老兵の
死ぬように
毎夜眠る
今日友とした
ふしぎな語らいを
思い出す
一輪の花の
散るように

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「少年兵」

おかあさん 愛して
おとうさん 見て
と叫んだ
ところから、首が、千切れたよ
ろれつはまわらない

ふりつもる雨みたいな
サラリとしたてざわりの
言葉でくるみたい
おやすみと囁きたい

母父を失った

だきしめる
あんしん、あんしん
だきしめられている

愛してる とても
なによりも
だれよりも

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「端午の節句」
ニラが ニラニラ笑ってる
やだな 今日はニラ風呂か
ニラが ニラニラ笑ってる
ちがうよ きょうは 菖蒲風呂
ツンツン ジャブジャブ 菖蒲風呂
ごがつ いつか

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「うた」
ツツジ らっぱっぱ らっぱっぱーのら
コウモリ ぱたぱた虫をたべ
汗ばむ青い五月の夕暮れ
おふろのにおい 石鹸の
赤ちゃんあくびで
猫わらう

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「海」
かわいそな
かあさん
あなたのこと
愛してた
だれよりも
海の中から
だれよりも

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「テンテン」

きょうもこれまた
いちどかぎりだ

いちどかぎりだからこそ
つらねてゆきたい
がっかりもわるかない
のほほんもなかなかよい

ギラギラではなく
キラキラしたい

点点でだいぶ
かわるものである

ふしぎなものだ

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「深呼吸」

うまれたことや
まだいきていることの
おかしいわたしだ

なにができるか できないのか
なにをしたいか したくないのか

ときどきふっと
たちどまる

でもどうせまた
あゆみだす

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「ひかる心臓」

私の心臓の中に
持ってる宝物
なーんだ

あなたの心臓の中に
持ってる宝物
なーんだ

こうかんこは
できないけど

かなしい、さみしい、ひとびとは
ひびくよに互いの心音
きくことできるんだな

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「氷のトンネル」

両親や教師のあつい語らいに当てられ
わたしは冷えてしまった

わたしにはひとり穿ちつづけた
透きとおった氷山のトンネルがある

氷山を、海を、浜を
庭を、一輪の花を
恥じらいながら
もくもくと探検していた
おとなたちもいるときく

あなたのみた
すばらしいひとりの風景を
わたしは聞きたい

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「皿洗い」
涙をぬぐうように
お皿を洗った
傷をふさぐように
やわらかい布でお皿をふいた

お皿は
ほのかにあたたかくて
キュッキュと鳴った

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「浮かぶ骨」
青い赤い金のピンクの
息飲むような夕暮れに
いまだ怯え泣く

木に逃げ遅れた友が家族が
獣の歯に
食われたのをみたのだ

猿をとらえ食いちぎり
共に家族に分けあたえ
やせおとろえ
飢えて倒れたのだ

最後の吐息の記憶よ

夕暮れ
わたしの血肉
夜に薄っすら浮かぶ白い月
わたしの骨

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「空と月」

空はこんなに青かったっけ
月はこんなに白かったっけ
いい夕暮れ
まいにちまいにち一回こっきり

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「フトンのきもち」
お布団が明るいおひさまあびて
香ばしくよろこんでいる
だから夜フカフカの
お布団もぐると
わたしもキャイキャイ
喜んじゃう
気のせいだろか
気のせいかもな
黙ってぬくたい風に揺れる
お布団はえらいな

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「たんぽぽ」

おてんとさまの花
ハラランラン
錆びたフェンスだって
フワワンワン
今日も笑ってるかい
ムーッフッフゥ

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「どこか遠く」

ひとりひとり くるしみをかかえていて
なのにどうしようもなく わかりあえなくて
そんなものかかえながら まわっている地球さん
空と風 鳥と花
どこか遠くでとどろいている海
どこか遠くで輝いている月と星

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「二子玉川」

家へ帰る人や仕事へ行く人の
金色の電車が夜に走るかわべりに
はんぶんこの月が出ていて
星もチラチラ 金星かしら
くらやみに黄色の菜の花揺れてます
夜の明かりはきれいだな
わたしもユラユラ揺れてます
ここですこうし光ってます

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「ねんねのにおい」
かあさんのお膝で
まぁるくなって
ねんねしながら
お花見できたらすてきだな
桜が散ってさみしけりゃ
さらさら髪を撫ぜられて
まぶたウトウト花びら落ちる
ねんねのにおいは桜もち

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「ぶらんこさん」

ぶらんこさん

今日は桜が満開だ

桜飛び越えて

月へと飛ばしとくれ

握るてのひら赤錆のにおい

ぶらんこさん

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「夜桜ラムネ」

好きな人どうしても欲しくってさ
ラムネ瓶叩き割って
ビー玉だしてしゃぶってた

もう蓋開いて取れるんだって
したら欲しくなくなっちゃって

薄青甘い味
記憶の舌

記憶だけ溶けない
えいえんに瓶の中

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「お船とお花」

壊れて空き地に捨てられた
錆びだらけの
ちいさな漁船によりそって
菜の花が笑ってた
ムラサキハナナも揺れていた
向こうに海の音もした
たくさんたくさん働いて
いまはきっと虫や猫の寝床だろう
いつか壊れてしまうなら
あんながいいな


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「花曇り」

薄曇りの日は
きぶんがなんだか
ドヨドヨ ドヨヨン ドヨヨン ドン
ムームー の 御機嫌ななめ
やんなっちゃう
あらあらあら桜の蕾が
パラパラ パララン パララン ラン
ムニャムニャ ウフフ
もうちょいで
ヒラヒラ ヒララン ヒララン ラン
爛漫 爛漫

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「くりがに」
じぶんで 死んでしまうのは
なかなか なんぎなことである
いやしかし うまれないほうが
よっぽどきらくで あったような
などどモニャモニャ思いながら
生きているくりがにを
味噌汁にしていたら
なんだかたいへん 申し訳なくなり
せめておいしく いただいたのだ
うーん おいしかったぁ
そんな毎日である

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「菜の花の味」
ひとはひと
ひとり

その透きとおるような
さみしさを
かろやかにさばけるようになったのは
いつからか

菜の花がうまくなったからもう春だ

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「椿のかけら」
好きよ好きよ
生きるって好きよ
地面に落っこっちゃっても
なかなかやめらんないんだもん

生きるって罪だわ

あたしからのチュウ

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「鳥」

おいちゃんはもう歳だから
こんな日は
いちにちじゅう
鳥をみているだろう
なにを考えているのかと

すると
なにも考えてないんだな
鳥は

人が想像しているほどには

おいちゃんが人でいるのも
あと少しだ

枝垂れ桜


自由詩 ちいさなちいさなことばたち Copyright 田中修子 2018-08-11 23:19:37縦
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