雨の日のトラの子温泉
りょう

空気に溶けるように降る雨の中で
林も雨に溶けていた
空の明るさも溶けていた
でも トラの子だけは浮いている
途中で何度も転んだのだろう
泥だらけだった
そのことを知っているから
余計に泥だらけだった

そばには大きな池があり
雨しぶきが一面に咲いていた
トラの子はいつものように飛び込んだ

すぐに飛び出してきた
あの 肌の奥に突き刺さる感じが
なかったのだ
あるのは 守られている感触

しばらくトラの子は周りを歩いて
池を見ていた

次の瞬間 また飛び込んだ
それから後はトラの子らしく
池の周りを水びだしにしながら
泳ぎ回った

トラの子が遊び疲れて眠ると
温泉の宿主は我にかえって
近くの動物園に電話をかけた
ずっと握りしめていた電話で

すべてが溶けていた


自由詩 雨の日のトラの子温泉 Copyright りょう 2005-03-23 01:38:43
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