季手
木立 悟





浪を映した鏡の穴が
さらに空から遠去かるとき
六百三十五秒の結婚
草のはざまに満ちる声


月と痛みと錯視の夜に
左目だけが吼えつづけている
緑と黄緑の静かな境いめ
崩れた壁に囲まれた原


海の上を漂う炎が
工場の夜を揺らしている
今は亡い民族の旗
灯と目のなかに翻る


何も持たない望みと呪い
常に午後に横たわる灰
冷気は冷気に尋ねている
生えた羽を棄てていいかを


紙に字を書き 紙を折り
手のひらに棲む蛇になり
夕暮れを呑み
夕暮れを吐く


雨の旅団の堕ちる先
出ては来れない暗がりに
三つの太陽 二つの月
ぼんやりと平たい盤を滑る


冬は別れと離れのつらなり
別れても離れても終わることなく
待つもののない暮れの手のひらに
冷たく湿った花の上に降る


















自由詩 季手 Copyright 木立 悟 2018-07-07 10:46:44縦
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