季手
木立 悟
浪を映した鏡の穴が
さらに空から遠去かるとき
六百三十五秒の結婚
草のはざまに満ちる声
月と痛みと錯視の夜に
左目だけが吼えつづけている
緑と黄緑の静かな境いめ
崩れた壁に囲まれた原
海の上を漂う炎が
工場の夜を揺らしている
今は亡い民族の旗
灯と目のなかに翻る
何も持たない望みと呪い
常に午後に横たわる灰
冷気は冷気に尋ねている
生えた羽を棄てていいかを
紙に字を書き 紙を折り
手のひらに棲む蛇になり
夕暮れを呑み
夕暮れを吐く
雨の旅団の堕ちる先
出ては来れない暗がりに
三つの太陽 二つの月
ぼんやりと平たい盤を滑る
冬は別れと離れのつらなり
別れても離れても終わることなく
待つもののない暮れの手のひらに
冷たく湿った花の上に降る