水玉記念日
岡部淳太郎
ひるがえる
水の分子
玉となって
雨となって
降りそそぐ
鳥でさえも
ひるがえる
水の玉に
水のために
ひるがえり
ゆっくりと落ちてくる
空を見る
地に視線を落とす
ひるがえり
舞い落ちた
水の玉が
空と地の間の
何もない空間を
つないでいる
人はそれを雨と呼ぶが
時には土砂降りと呼ぶが
無数の水の玉にとっては
何の思いもなく
ただひるがえるために
ひるがえっているのみ
これらの水の玉を
掬うように
救うように
胸の中の掌に溜めてゆく
ひるがえる
水の思い出
その記念に
ゆっくりと思い出すために
ここからの水を
水の服をまとう
ひるがえる
舞い落ちる
かつてこの地の上に最初の水が
玉となって降りそそいだ日を
その遠さを
われを忘れて思っている
(二〇〇五年三月 「poenique」即興ゴルゴンダ)